第1話 甘噛み

「それで、旦那様。今日のご予定は?」


シュライエットの美味しい朝食を食べ終わり、ゆったりとした朝のティータイムを楽しんでいると、シュライエットがそう話しかけてきた。


「澄火が何もなければ、ダンジョンかな」

「……ん。攻略で大丈夫。もういく場所も考えてある」


そういうと、澄火はタブレットを見せてくる。


「……金沢ダンジョン……一泊することになりそうか?」

「ん。でも若くんは泊まらないでしょ?」


澄火はじっとこちらを見つめてくる。なんだか、部屋の湿度が少し上がったような気がした。


「……なんでこのダンジョンにしたんだ?」

「……ん。過去のドロップアイテム見て」

「ドロップアイテム?」


俺は一覧をスクロールする。すると下の方に、「帰りの水晶」という文字列があった。


「……ん。それもそうだけど、それだけじゃない」


澄火は後ろからのしかかってくると、もう一つの文字列を指差す。


「あれ、この銃って」

「ん。オークションで落札したやつ。似たようなものがないか、探したい」

「なるほどな。よし、行こうか。シュライエットは今日は……」

「在宅ワークだから、安心していいよ。このマンションはセキュリティも高いし……それに、いざとなったら駆けつけてくれるんでしょ?」


シュライエットはそういうと、ほっぺにキスをしてくる。


「じゃあ、私は下に戻るよ。帰る時になったら教えてね」


そして、ふんふふーんとよくわからない鼻歌を歌いながら去っていった。


「……ん。このタラシめ」


澄火が反対側のほっぺを人差し指でぐりぐりと抉ってくる。結構痛いのでやめてほしい。


「……俺は無罪だと思わないか?」

「…………」


澄火は俺の左手をすっと持ち上げて見せてくる。俺は視線をあさっての方向に向ける。


「……エルからは、4人は娶るように言われているので」

「……ん。じゃあ今夜は私と一緒に過ごして?」

「……よし。そろそろ準備に取り掛かろうか。ポーションの類の準備を入念にな」


俺は話をぶった斬り、澄火をひょいっと持ち上げて立ち上がる。

澄火はするりと俺の腕から抜けると、ガブリと俺の首筋に噛みついてくる。


甘い痺れが首筋から広がり、全身にそれが伝播していく。

俺の皮膚が突き破られたような感覚がしたので、血が流れているはずだが、逆に何かが流れ込んでくるような感覚がする。


「……ん」


しばらくすると澄火は噛みつきをやめて、自分の部屋へと消えていった。


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