第13話 叡智の塔

「すごい場所ですね」

「ふふふ。これでも片付けたつもりなのですけれど」


塔のセキュリティを突破した先には、様々なアーティファクト……もしくはその部品と思われる機械があった。


ひとりでにクルクル回ったり、あるいは重力を無視してふよふよと浮かんだり。

制作途中と思われる、人型ロボットなんてものもあった。


「翔達の戦闘服コスチュームの一部も、ここで制作したのです」

「なるほど……」

「こちらですわ」


エルはそう言って俺の手を引く。


おそらくはこの塔自体が一つの大きなアーティファクトなのだろう。

明らかに現代の科学技術では再現不可能な、吊り具も何もない、ただの円盤が浮かんでいるような形のエレベーターにエルと共に乗り込む。


エルがパチリと指を鳴らすと、すいっとエレベーターが上昇していく。

そして、塔の最上部へと到着した。


おそらくここがエルが普段研究に使っている場所なのだろう。

多数のマニピュレーターが内部にある、穴がないクリーンベンチのような機械や、電子顕微鏡のような機械、その他何に使うのかさっぱりわからないような機械がたくさん置いてある。


エルは俺の腕から腕輪を外すと、そのうちの機械の一つ……球形の物体に、大腿骨の先端のような形の棒が三本付いたような機械にセットする。

機械はフオンという音を立てて作動を始める。エルヴィーラ王女はしばらく何やら虚空をタップすると、ガシャリと機械のシャッターを閉めた。


どうやら。しばらくこのまま放置しておくらしい。


「ふふふ。いかがですか?わたくし自慢の研究室は」

「凄いですね。何年もかけて創り上げられた……まさに『叡智』の塔だ」


おそらく、日本ダンジョン協会の地下にある研究施設にも引けを取らないだろう。とても個人で創られたとは思えないほどのものだ。


エルが1人で国のGDPを数倍にしたと言う話も、この施設を見ただけで納得することができる。


「ふふふ。この塔はこれだけではありませんわ」


そういうと、エルは機械の一つにそっと触れる。すると、ずずずずと機械がまるで扉のように動く。

次に壁の一部に触れると、そこから幾何学的な青い線が広がっていく。そして、ただの壁のように見えた場所がどんどんと立方体のブロックに分割されていき、ぽっかりと穴が空いた。


「……隠し扉?」

「ええ……ふふ、ここを殿方に見せる日が来るとは思いませんでしたわ」


全体的に、薄いパステルピンクで統一された部屋。少し大きめのベッドにデスク、そして本棚にクローゼット。

日本でもよくありそうな、“女の子の部屋”というやつか。


本棚には、いつかエルにプレゼントした短剣が置いてある。よく見ると少しデザインが変わっているので、なんらかの改造を施したのかもしれない。

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