エピローグ

と、エルがぼおっと部屋を眺めていた俺を背中からベッドに押し倒してくる。油断していたので抵抗もできず、俺はとさりとベッドに倒れ込む。


「エル?」

「ふふ」


エルはぎゅうっと俺を後ろから抱きしめる。

自然と俺の顔がベッドに押し付けられる。エルの華やかな香りが俺を包む。


「この島と、配下たちを紹介いたしました。そして、過去をお話ししました。わたくしの拠点と、そして秘密の部屋の存在も明かしました……これで、全てです」

「……全て?」

「ええ。わたくしの、全て。あなたを愛そうとしている女の全てです」


愛……


「いかがですか?」

「……エルの好意は素直に嬉しい。ですが……俺は、澄火と“永遠に離れない”という誓いを結んでいます」


そしてその誓いを結んだ気持ちに、嘘はかけらもない。

俺と澄火は結婚という形に結びつくことはないが、それでもそんな誓いを交わした以上、エルの想いに応えるわけにはいかない……


俺はそう続けようとして、エルに遮られた。


「ええ、存じておりますわ。……それでもいいのです。あなたと澄火は最早一心同体……離れようとて、離れられるものではないでしょう」

「……ええ。ですから」

「心配は入りませんわ。私と結婚するのであれば、私を含め4人は必ず娶っていただく必要がありますから。もちろん、これは澄火も知っています」

「……はい?」


俺は思わず聞き返す。

4人娶る必要がある……?


「王族の一員にも、王族が降嫁した家にも、それなりの格が求められますわ。一つは財産。一つは人。人の中には当然、妻も含まれます」


結婚……いや、重婚によって血縁を築き、力を取り込んでいく。どこの王族もやっていたことだ。

未だ王政が敷かれているレイヴァント王国ではその仕組みが続いていてもおかしくはない。


「翔でいうなら、わたくし、澄火、シュライエット……そして玲奈にリリアといったところでしょうか?」

「……澄火とシュライエットはともかく、玲奈とリリアは俺と結婚しようとは思わないでしょう」


玲奈は家の問題があるし、リリアが俺と結婚する意思はおそらくないと思う。


「では、もう1人見つける必要がありますわね。大丈夫ですわ、わたくしの人脈からいい方を見繕いますから」


“いい方”というのはその人個人のパーソナリティはもちろん、レイヴァント王国と王家にとっても“都合のいい人物”という意味も含むだろう。


「“colors”と私の収入、私の王族としての立場……これで経済的問題と倫理的問題は全て解決いたしますわ。あとは、翔の気持ちだけです」

「気持ち……」


俺はぐるりと寝返りをうって、エルと見つめ合うような体制を取る。


プロポーズの言葉に、“経済的問題”とか“倫理的問題”とかの用語を出すあたり、なんだかんだエルも人間関係に関しては不器用なのだろう。

同世代の友人より、「配下」の方がたくさんいるのも、その辺りが影響しているのかもしれない。


俺はエルと出会った日から今までを思い出す。


この島に招かれたこと。

護衛を務めたこと。

エルを守るために戦ったこと。

そして、昨日の口付け。


短くも、濃密な日々。

俺は美しく輝くエルの瞳を見つめる。


「俺は……エルを愛します。強く、気高く、美しい……それでいて少し不器用なあなたを」

「……ふふふ。私も、永遠とわに翔を愛すると誓いましょう……“誓約成立”」

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