第11話 一方その頃……

翔が部屋を抜け出したその数十分後……部屋へそっと忍び込む影が一つ。


人影は布団に一人の気配しかないことを確認すると、音を立てないようにしてベッドの上へとのぼる。


「布団にくるまって……そんなに寂しかったのかしら?ふふ。来栖家に継嗣たるこの私直々に、癒してあげ……」

「……ん。どうしたの?」


ひょっこり布団から顔を出したのは、意中の相手……ではなく、意中の相手の相棒である澄火だった。

人影……いや、玲奈の動きがピシリと凍りついたように停止する。


しかし、そこはさすが来栖家の継嗣といったところか。気を取り直して平然を取り繕い、澄火への質問を開始する。


「……どうして、あなたがここに?ここは翔の部屋ではないかしら?」

「……ん。いつも一緒に寝てるから」

「……では、なぜ今はいないのかしら?」

「布団を抜け出してどっか行った」

「……なんだか怪しい気配がするから様子を見にきてみれば……あなたでしたか、玲奈」

「ひゃ!」


気配すらせずに背後に近づいて話しかけてきたリリアに、玲奈は驚いてばっと振り返る。


玲奈も旧家の娘として、古代武術を多少は嗜んでいるはずだが、全く気配を感じ取れなかった。


「せっかくですし、お話ししますか?話題は……そうですね、私の可愛い弟子のことがちょうど良さそうです」


そういうと、リリアもベッドに乗りこんでくる。


「そういうことなら、私も混ぜて欲しいな」


と、近くの部屋で複数の気配が蠢くのを感じてやってきたバクが言った。

犯罪組織で育ってきた経験が影響してか、気配の動きには若干過敏気味なようである。


バクも玲奈やリリアと同じくベッドに乗り込んでくる。部屋のベッドはかなり大きく、4人で寝ても全く困らない。


「……ん。玲奈が夜這いをかけてくるとは驚いた。SS級じゃないとダメとか言ってたのに」


と、澄火が口火を切った。


「彼ならそれくらい、すぐになるでしょう?どうなんです、SSS級探索者の『天使』さん?」

「そうですね……戦闘力自体は、今もSS級に入ると思います。私と渡り合うだけのステータスと手数を持ち、弱点だった我流の剣術も矯正されましたし」


それに、私の聖痕スティグマも刻んだことですし……と、リリアは心の中でひとりごちる。


「あと必要なのは、実績……でしょうか。ダンジョン攻略をこなしていけば、すぐに上り詰めるでしょう」

「でしょう?それに私のことを言うなら、エルヴィーラ王女の元に行くのを許した澄火の方が理解できないわ。……そんな指輪までつけておいて」

「……ん。エルとも予め話し合った結果だから構わないだけ。それに、誓約があるから」

「……誓約?」


どこか不穏な響きのするワードに、玲奈が首を傾げる。しかし澄火は何も答えなかった。


時折火花は散りつつも、少女たちの夜は更けていった。

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