第6話 海といえば

「ふふふ、どうしてわかったんですの?」

「気配……ですかね」


ヴァイオレット……いや、エルヴィーラ王女は、バサリとメイド服と共に変装を剥ぎ取る。

メイド服の中から現れたのは、黒いビキニ姿のエルヴィーラ王女だった。


普段はドレスによって隠されている、グラマラスな肢体が露わになっている。

金髪碧眼に白い肌という西洋風で、どこか高貴さを感じさせる容姿と、黒いビキニとが反則的に似合っていた。


「どうですか?」

「……一枚の絵画のように美しいです」

「ふふふ、ありがとうございます」


エルヴィーラ王女は俺の横に優雅に座る。


「もうすぐ他の方達も……あら、もう来てますわね」


そういうと、エルヴィーラ王女は振り向く。

視線の先を見ると、澄火、玲奈、リリア、シュライエットといった面々が、こちらへ歩いてきていた。


当然の如く、全員水着姿だ。


澄火は俺が選んだ(と言うより選ばされた)水着で、いわゆるタンキニというやつを来ている。ヒラヒラとしたパレオがついているのがポイントだ。淡い紫の水着が、栗色の髪と不思議とマッチしている。


玲那はと言うと、エルヴィーラ王女とは対照的な白いビキニを着ている。まさに大和撫子といった黒髪とのコントラストが眩しい。

おそらく今後、成長することはないということを俺の直感が(なんとも悲しい直感が)囁くが、それが返って東洋風の美を際立たせていた。


リリアは、いつもの白い衣装を水辺仕様にしたような水着を着ている。あまり露出はないが、なぜか胸の谷間だけはちらりと見えるようになっていた。


シュライエットは、いわゆるハイネックビキニというやつで、露出はそこまでない代わりにオシャレにこだわったような、そんなデザインの水着を着ている。

これまでの過酷な生活が影響してか、そこまで肉感的な印象はないが、均整のとれたプロポーションをしていることが伺えた。


「ん、どう?」


と、澄火が真っ先にこちらに来て感想を求めてくる。


「可愛いよ、澄火」

「……ん」


ありきたりなことしか言えなかったが、澄火は満足したようで少し頬を紅に染めると、エルヴィーラ王女の隣に腰を下ろす。


「……私には何かないのかしら?」

「師匠たる私にも何か言葉が欲しいですね」

「旦那様」


と、他の三人からも感想を求められる。


「……玲那は、正に日本美人といった感じで優雅な美しさを感じる」

「……なかなか口が上手いのね」


玲那はそう言うとそっぽを向いてパラソルの下に腰を下ろす。若干照れているようで、耳が赤い。

なかなか可愛いところもあるようだ。


「リリアは神聖なイメージで、水辺に佇む女神みたいですよ」

「女神、ですか。なかなか大きく出ましたね」


リリアは面白がるようにそう言って笑顔を作る。


「……シュライエットは、センスがよくて、とても似合ってる」


最後にシュライエットにそっと耳元で褒め言葉を囁く。

シュライエットの名前はみんなに聞かせるわけにはいかないが、褒め言葉はやはり本当の名前を口にして言った方がいいと思ったからだ。


シュライエットの心のどこかに触れたのか、シュライエットは顔を真っ赤に染めて海へと走り去ってしまった。


背後のエルヴィーラの配下たちから、「このタラシめ……」と言うような非難がましい視線が降り注ぐ。

俺は気にしないふりをするのが精一杯だった。


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