第8話 翼

全身がふわふわの何かに包まれている。


身じろぎをすると、「……んん」という甘い声が耳朶を打つ。


ふわふわした何かは、まるで血が通っているかのように温かく、清浄な香りで俺を癒してくれる。


一体これはなんだろうか……


俺はそれを探るべく、俺を包むふわふわに手を伸ばそうとして……そして、聞こえた声に一体そのふわふわなものが何かがわかった。


「……んん。起きましたか?」


ばさりと俺を包んでいた翼を広げる“天使”。

なぜか、何も着ていない。


着痩せするタイプなのか、あるいは普段はなんらかの手段で押さえつけていて目立たないのか。その辺りはよく分からないが、いつもの真っ白な服を着ている時には全く気づかなかったが、結構大きい。

エルヴィーラ王女にも引けを取らなそう……というか、エルヴィーラ王女よりも大きそうだ。

寝てる時にはブラを付けないと形が崩れる的なことをランジェリーショップの店員さんが言っていたような気がするが、超高ステータスを持つ『天使』にはあまり関係がないようだ。


俺は紳士として、努めてそちらを見ないようにしながら、『天使』と会話をする。


「……ちなみに、なんで俺も裸で?」

「どうしてと言われましても……あまりにもボロボロだったので、ほとんど服の様態をなしていませんでしたが」

「…………」


確かに、あの激しい訓練をしていれば服はボロボロになりそうだ。ユニクロで買った量産品の安い服なので、あまり未練はないが……


「ふふ。『炎刀』から連絡を受けて駆けつけると、地面ですやすやと寝てらしましたよ?聞けば、七日七晩訓練を続けたそうではないですか」

「……そうでしたか」


覚醒する前の最後の記憶は、咲良さんにお礼を言ったところまでだ。どうやらあの後、気絶するように眠りに落ちてしまったらしい。


「私の翼はどうでしたか?」


『天使』は少し頬を染めてそう聞いてくる。


なかなか返答に困る質問だ。……っていうか、何を答えてもセクハラじみた答えになる気がする。


「…………あったかくて、よく眠れました」


俺はしばしの思考の末、そう回答した。


ていうか、『天使』と一緒に眠ったなんてことが公に知られたら、なかなかやばい事態になりそうだ。

何せ、『天使』は「最強」という称号と、その美しい容姿から世間にかなり名が知られていて、ファンも多い。


探索者が浮世離れしている存在だと言っても、なかなかに面倒な事態になりそうだ。


「ふふ。私たちだけの秘密、ですね?」


俺の思考を見透かしたように、そういたずらっぽく笑う『天使』。

見たこともないような表情で、俺は少しドキリとしてしまった。


「……ち、ちなみに、ここは一体どこなんです?」

「静岡県にある、隠れ家的なホテルですよ。たまたま空きがあったので、ここへ……紹介制ですから、『天翔』と『紫電』のお二人も私の方から泊まれるようにしておきますよ」

「ありがとうございます」


紹介制のホテルなんてものがあるのか。

世の中はまだまだ広いということを俺は実感するのであった。

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