第3話 もっと自由に

水をかけわけて上昇し、水面から飛び出る。


俺が叩きつけられたことによって生じた衝撃により、上空へと舞った水飛沫がパラパラと俺に降りかかってきた。


今は晩夏とは言え、少し寒い。紅刀によって火を生成し、服を乾かして少しの暖を取る。


「少し、人間としての常識に縛られすぎですね。もっと自由に動いていいんですよ?私たちには、翼があるのですから」

「もっと自由に……」

「ええ、例えば」


そういうと、すっと正眼に剣を構えるリリア。


そして、一気に8連撃を放ってきた。剣を上げて下ろす、シンプルな唐竹斬り。

それを自身が回転しながら撃つことによって、円を描くような斬撃を作り出している。


「……ぐっ」


手に持った二刀で六連撃目まではなんとか対応するも、その後の二連撃を喰らってしまい、俺は再び海に叩き落とされた。


再び水面まで上昇し、天使と同じ高さへと移動する。


「ふふ。まさか六つの斬撃に対応されるとは思いませんでしたよ……とまれ、こんなふうに、重力に囚われない、もう少し独創的な動きがあなたには必要です」

「……なるほど」


確かに、俺はもうステータス能力を持つ探索者であり、この世界の本来の秩序からも明らかに逸脱している。

人間の常識……というより、物理法則に従ってやる必要などどこにもない。


俺は二刀を構える。


「……ふふ。では、行きますよ?」


リリアはそういうと、翼を広げてぐんと上へと飛ぶ。

待っててはいけないと思った俺は、追いかけるべくニャルトラ・ステップで宙を蹴る。


「言ったでしょう、重力に囚われてはいけないと」

「ええ」


リリアはくるりと振り返って斬撃を放ってくる。

俺はそれを、さながら天井を走るようにニャルトラ・ステップで空を翔け、体の軸をずらすことによって回避する。


「なるほど」


今度はリリアは蝶のように複雑な軌道を描きながら飛び回る。俺もそれを追いかけるように、体勢を変えながら天を翔ける。


俺の視界は天地が幾度も入れ替わり、空間把握にはほぼを意味をなしていない。

ほとんど自分の直感に頼りながら高速機動を続けていると、不意に殺気のようなものを感じ、俺はその方向に抜刀術を放つ。


バチンという音がして、俺の刀とリリアの剣のオーラとが衝突し、双方が弾かれた。


「早速直感を使いこなすとは……やりますね」

「ありがとうございます。……ところで、少し休憩をいただいても?」

「……?どうしたんです?」

「酔いました」


いくらステータスが上がったとはいえ、慣れない立体機動に三半器官は耐えきれなかったようだ。

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