第4話 師匠

直感を身につける訓練と、リリアとの稽古を、文字通り不眠不休で続けること一週間。


俺は目を閉じていても迫り来る鎖を避けることができるようになり、リリアとも少しは戦えるレベルにまで空中戦が仕上がってきた。


「……はあ!」


俺はニャルトラ・ステップを活用して、複雑な軌道を描いて飛ぶリリアに追い縋って斬りつける。


「……甘いですよ」

「それはどうですかね?」


剣の交錯した地点を支点にして、俺はくるりと回転する。すると、天使から拳打が飛んできて俺は叩き落とされた。


俺はなんとか水中への落下を踏みとどまる。


「ゲホッ」


咳き込むと、口から血が出てきた。

どうやら、拳打によって内臓のどこかが傷ついたようだ。俺はポーションを飲んで回復し、追撃に備えるべく刀を構える。


しかしリリアは剣に纏ったオーラを消すと、腰に下げた鞘に納刀した。


「……なかなか様になってきましたよ」

「ありがとうございます、師匠」

「ふふ。では、そろそろ刀の修行の方に移りましょうか。すでに待機してくれていますので、そちらへ向かうことにしましょう」


そういうと、リリアは俺をヒョイっとお姫様抱っこする。

潮の香りに混じって、ふんわりとリリアの清浄さを感じられる香りが感じられる。

少し華奢な腕に抱えられているが、

が結構当たってしまっている。迂闊に身動きしてしまえば、なんだか刺激してしまいそうで、俺はそのまま抱えられている他なかった。


「……俺も飛べますよ?」

「まあいいではありませんか。訓練でお疲れでしょうからね」


俺はせめてもの抵抗として特に抱える必要はない旨を伝えたが、リリアは特に気にする様子もなく背中の羽を広げる。


「では、出発しますよ」


そういうと、リリアは翼を力強く動かして移動を始めた。

その気になれば俺を抱えていてもマッハの速度を出せるはずだが、疲労した俺に気を遣ってかやや速度を落としている。


「ふぁ……」


ステータスが上がったとは言え、流石に六徹はきつかったらしい。

日本最強の探索者であるリリアに守られているという安心感も相まって、だんだんと眠くなってきた。


「寝ても構いませんよ?大丈夫。何かあっても守りますから」

「……では、お言葉に甘えまして」


俺は完全にリリアに体重を任せて力を抜く。リリアはオーラをうまく使って、俺が辛くないように取り計らってくれる。


なかなかに器用だ。


俺の意識は徐々にブラックアウトし、ふっと意識が落ちた。

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