第9話 80階層

60階層のボスのドロップは、三対の真っ黒な手袋だった。


試しにつけてみたが、一体どんな技術が使われているのか、つけていることすら忘れてしまうような着け心地だった。


MPを通して見ると、手袋の一部を消して肌を露出させることができた。地味と言えば地味な能力だが、意外と有用な能力である。


手袋はかなりの防御力もありそうで、またあの黒い人影と同じように再生もできるため、半永久的に使うことができる。

ちなみに、手袋の黒さはあの人影と同じような黒さ––––光の反射率がほとんど0%に近い黒さなので、そう言った意味でも戦闘に貢献してくれそうだ。


一つは俺が、一つは澄火に、そしてもう一つはエルヴィーラ王女へのお土産にすることにした。


そして現在、俺たちは80階層に来ていた。


闘技場の中心まで歩いていくと、不意に地面が揺れる。

俺は嫌な予感がして、澄火を抱えて上へと跳ぶ。


一瞬の後、俺らがいた空間を黒いスライムのようなものがぐぱりと呑み込んだ。


「澄火!」

「……ん!」


俺はアム・レアーを起動して、地面……いや、地面に擬態したモンスターを爆撃する。

澄火も紫電を作り出して地面を攻撃する。


すると不快に感じたのか、モンスターがその巨体をぐいっと持ち上げる。


「おいおいおいおい!」


シシ神様か何かか?

俺は蒼刀を引き抜き、MPをこめる。


「氷華雪界!」


俺は氷の力を解放し、モンスターを氷に包む。モンスターはその巨大な体を停止させた。


「今だ」

「……ん!……赤き怒り。青き情熱。一つとなりて、静止せし世界を再び震わす––––蒼紫霜電」


澄火は明らかに不必要かつ特になんの意味もない詠唱をして赤い電撃と青い電撃を放つ。


それらは氷の中心で合わさると、猛烈なエネルギーを周囲に放出する。


ずん。


氷が一瞬で水蒸気と化し、その体積を1700倍にも膨らませる。

周囲に凄まじい圧力変化を起こし、恐ろしい轟音を立てて周囲のあらゆるものを吹き飛ばした。


「……げ、まじかよ」


しかしそれでもスライムは生き残っていた。持ち上がった体の部分は全て吹き飛んだようだが、それは奴の体の本体というわけではなかったらしい。


「ん。もっと威力を強くする」


最近脳筋キャラが板につきつつある澄火がそう主張する。


「……それしかない、か?」


もう少し何かクレバーな方法があるような気がするが……うーむ。


「……ん」


澄火は紫電を生み出して赤い電撃と青い電撃への分離を始める。


「どれくらいかかりそうだ?」

「……ん。3分ぐらい」

「なかなかきついな」


3分後に蒼刀の力を使わなければいけない都合上、MPを温存しておく必要がある。

なかなか、厳しい戦いを強いられそうだ。

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