第2話 眠れぬ夜
「…………」
眠れない。
目を閉じると、ひらひらと舞う黒い布がいくつもいくつも思い浮かんでは消えていく。
「……眠れない?」
と、澄火がこちらをじっと見つめてくる。
「……まあな」
黒服を倒し、飛行機に戻った俺たちはそのまま帰国することに成功した。
熊川さんに報告すると、「対応しとくから、安心してこちらに任せなさい」との心強い返事をいただいた。
そんでもって、アーティファクトを手に入れたお祝いにと二人で少し高めのディナー(とは言っても、そんなに高いものではない。せいぜい3千円やそこらだ)を食べ、家に帰ってきたというわけだ。
しかし、家でベッドに入った俺を待ち受けていたのは、眠れないという症状だった。
「……ん、慰めてあげる」
澄火はそういうと、ぐいぐいと俺の肩を押して布団の中へと押し込めてくる。
俺は抵抗せずに、されるがままに任せる。
そして、ちょうど澄火にぎゅっと頭を抱えられるような体勢になった。
「……あの、澄火さん?」
「…………ん?」
「なんでつけてらっしゃらないので?」
以前にもこうしてもらった……というかこういう体勢になったことが何度かあるが、その時と感触が違う。
具体的には、むにゅむにゅとしたなんとも言い難い柔らかい感覚がダイレクトに伝わってきている。
「……ん。ちょっとサイズオーバー」
「……サイズオーバー?」
つまり、少し成長したということか。
「……ひょっとして、買い換える必要が」
「ん。ある。今度買ってきて」
「……ええ」
またあれをやるのか……
俺は少し眩暈がするような感覚に陥った。
「そういえば」
「……ん?」
「ピース3の名前どうしようか」
確かこれまでも澄火につけてもらったんだし、今回も澄火に命名してもらおう。
「『天輪』」
「……『天輪』?」
ピース1と2はカタカナの名前だったが……ピース3は漢字の名前にするのか?
「……ん」
澄火はそんな俺の疑問に、微かに頷いて肯定の意を示してくる。
澄火がいいというなら、俺は何も言うまい。
「……じゃあ、ピース3は天輪ということで」
「……ん」
なんだか、眠くなってきた。
澄火は頭を撫でてくれる。
柔らかで暖かいものに包まれる感覚。
いつものどこか安心する匂いに加えて、ほのかにミルクの香りがする。
耳を澄ませれば、とっくん……とっくん……とかすかに鼓動の音が聞こえてくる。
この世の全ての悪から守られているようなそんな感覚に陥り、無意識に張り詰めていた意識が弛緩していくのを感じる。
「……大丈夫。……大丈夫」
「……ああ」
澄火に守られながら、俺の意識はすっと落ちていった。
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