第6話 いざ中国へ

数十分ほど(正確な時間は知らない。日の届かない地下にいると体内時計がバグるのだ)、シュライエットと話したあと、俺たちは地上へと戻ってきた。


「成果はありましたか?」

「まあね。黒子ビハインドザシーンがどうやって構成員を集めているのか、その一端が初めて判明したと言えるかもしれないわね」

「……そうですか。では、俺たちはこれで」

「うん。またね」


麻奈さんは颯爽と去っていった。


「……よし。じゃあ、アーティファクト探しに行くか」

「……ん」


俺たちは本部エントランス近くに設置されている作戦会議ブースの一つに陣取り、虚空から羅針盤を取り出す。

MPを込めると、羅針盤がものすごいスピードで回転を始める。数秒後、羅針盤の針が一方向を指して止まった。


すでに家で記録した方位と組み合わせれば、示している座標が浮かび上がってくる。


「……天山山脈……中心部?」


天山山脈。

中国西部に存在する、『世界の屋根』とも称えられる山脈である。4000m以上の高さを誇る山が連なっている。

座標は、その中心部を示していた。


「……どうやって行くか」

「……ん。近くまで飛行機。あとは走る」

「……それしかないよな。3日で帰って来れるか?」


往復に2日消費するとして、だいたい使えるのは一日といったところか。


「……ん。いける」


そう言うと、澄火は麻奈さんにメッセージを送る。一瞬で飛行機の手配が終わったと返信が返ってきた。


ここから空港まで一時間ほど。早速出発することにしよう。


俺たちはブースを片付け、協会を出る。


「おや、『天翔』に『紫電』。どこへ行くんだ?」


と、リムジンに乗り込もうとしていた咲良さんから声をかけられた。


「少し用事があって、中国に」

「ほう、奇遇だな。私も海外に行く用事があるんだ。どうだ?空港まで乗って行くか?」

「……いいんですか?」

「ああ。さ、入りたまえ」


咲良さんはそう言うとリムジンの後部座席に乗り込む。

俺たちも乗り込み、咲良さんの対面に腰掛けた。


「中国には一体どういう用事が?」

「ダンジョンのレアアイテムを求めて……といったところですね」

「レアアイテム……中国。ふむ……帰りの水晶か?」

「ええ、まあ」


そういえばすっかり忘れていたが、『帰りの水晶』を探していたのだ。

これからアーティファクトを探しに行く時は、帰りの水晶を探しているということにしよう。


「今のところ、世界に100とないアイテムだからな。序列でも、持っているのは数人ほどだ」


あれ、そんなに少ないのか。そりゃ市場に出回らないわけだ。


「逆に咲良さんは何をしに?」

「なに、知り合いの探索者からダンジョン攻略に誘われてな」

「……もしかして、あのティアーズ・ダンジョンですか?」

「ああ」


ティアーズダンジョン。

英語に直すと、Tear’s dungeon。世界最悪と言われたダンジョン災害が起きた……いや、現在進行形で起きているダンジョン。

今も半径10kmが封鎖されているのだという。


世界で最も危険なダンジョンの一つだ。


「攻略……というと」

「周辺の魔物の掃討ということになろうな」

「……なるほど」


流石にダンジョンの中に踏み込むようなことはしないらしい。

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