第9話 電話

他には特に俺たちに取って目ぼしいものはなく、(ポーションとか、生活用品とかの消耗品が意外にも多かった)、俺たちはプレゼントを全て開封し終わった。


「……熊川さんへの連絡を先にしとくか」


俺はスマートフォンを取り出し、久しぶりに電源をつける。

護衛中は、事故を防ぐためにスマートフォンの電源をつけることが禁止されていたのだ。


「……げ」


10件の着信。うち5件が学校、もう5件が母親と父親からだった。


「……どうしたの?」


澄火がひょいっと俺のスマホを覗く。


「……いや、ちょっと嫌なやつらから電話があってな」


俺はとりあえず、学校に電話をかけることにする。現在時刻は19:00。まあ、営業時間内といっても構わないだろう。


「……もしもし、若槻ですけど」

「おお、若槻くん!今校長先生に繋ぐから、ちょっと待て!」


…………。別にいいから、早く済ませてくれないかな。


戦利品検証とプレゼント開封によって上がってテンションが、みるみるうちに萎んでいくのを感じる。


と、澄火がずいっとタブレットの画面を見せてくる。


『テロ組織から日本を守った英雄!母校は打水高校!』なんていう文字が並んでいる。

もちろん、打水高校は俺たちの高校である。


「…………」


俺は思わず通話をぶちっと切った。


「若くん?」

「…………」


ここで短気を起こしても仕方ない。


俺は思い直して電話をかけ直そうとしたところで、どこから電話が来たのか察した澄火にすっと止められた。


「……ん。私たちに学歴は必要ない」

「……それもそうだな」


俺は代わりに、退学の方法を調べる。どうやら、公開されている退学届を出すだけでいいようだ。

明日にでも、配達証明付き内容証明付き郵便で送り、とっとと縁を切ってしまうことにしよう。


ここで終わらせたいところだが、まだ一件電話が残っている。俺はどちらに掛けようか一瞬迷い、母親の電話番号を入力して発信する。

単純に、父親はまだ帰宅中かなと思ってのことだ。


「……もしもし?」

「あら、翔。今どこにいるの?心配していたのよ」

「さあね」


俺ははぐらかす。

居所を教えることで、かなり面倒な事態になりそうだからだ。


「それより、何の用?」

「戻ってらっしゃい。今どこにいるのか知らないけど、こっちの方が絶対に環境がいいはずよ。もちろん、あなたが住みたいところに一緒に住んでも構わないわ」


おそらくネットか何かで探索者の給料を知ったのだろう。

遠回しに、家を買うことを要求してきた。


「……断る。今まで捜索願すら出さなかったくせに、心配顔するのはやめろ」

「少しは親孝行をしたら……」

「中学生の時に散々味わわせてやったろ?時の人である快感を」


俺は、中学受験で日本で最も偏差値の高い中学校へと合格することに成功した。

それも、塾にも全く通わずに。


それを何処かから嗅ぎつけてきたマスコミから母親へ、取材が殺到したのだ。

一時期はテレビで一週間毎日出ていたこともあるくらいだ。


まあ、そんなブームも三ヶ月経てば消え、俺の受験失敗によって完全に消失してしまったが。


「……あなたが受験失敗さえしなければ」

「俺はあんたのいう通りに勉強した。結果を受け入れたらどうだ?」

「……ちっ。いいから金を寄越しなさい。あなたの教育費にいくら使ったと思っているの?」


威圧しようと意味はない。

俺はもう、探索者だ。


「……教育費の多さはエゴの大きさ。そんなセリフを見たことあるな」

「この恩知らず……」

「もう連絡してこないでくれ。それから、昔のお友達マスコミに自分が育てたとか言っても後で恥をかくだけだぞ」


俺は電話を切り、両親共に電話番号を削除し、ついでに通話拒否設定に放り込む。後で、電話番号を変えてしまうとしよう。


「……ん、お疲れ」

「……ああ」


俺はソファに倒れ込んだ。


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