第6話 ペンダントと瓶

「……大丈夫なのか?それ」

「……ん。大丈夫」

「能力は?」

「んー」


澄火は左手の紋章を浮かび上がらせる。


「多分、傷を癒すことができるの……かな?……多分」


そういうと、澄火は持っていたナイフでぴっと自分の指を切り付ける。

そして紋章に力を込めて、即座に治癒してみせた。


「……おお」


MPの消費量など詳しい条件は分からないが、かなり強力な能力だ。これから大活躍してくれることだろう。


「……ん」


澄火はご満悦そうに頷く。


ひとしきり喜びに浸った後、澄火が手に取ったのは汚れがついたペンダントである。


「……ん」


澄火はペンダントを指から吊り下げると、じっと睨む。

空気が変わる。

気づいたら、ペンダントの汚れは消失していた。


「……澄火?」


今のは一体?

俺の体感では、時間がスキップしたようにも感じられた。


「……ん。秘密」


澄火はそういうと、人差し指を唇に当てる。


なんとなく、問い詰めてものらりくらりとかわされて何も答えないんだろうな……と察した俺は、澄火が話してくれる時まで待つことにした。


「……そうか」


俺はペンダントに意識を移す。


全く同じデザインのペンダント。

円形の紋章の真ん中に、見る角度によって色が変わる不思議なクリスタルが嵌っている。


ダンジョン産という話だったが……一体どんな力を持っているのだろう……いや、これと同じものをどこかでみた覚えがある。


俺はタブレットを持ってきて、日本ダンジョン探索者協会のデータベースから探していく。


「……あった」


名称、『ステータスセイバー』。

ステータスを非戦闘時に貯蓄し、装備者の任意のタイミングで解放することができるアイテムだ。


ダンジョンに初めて入った時にもらった指輪の上位互換と言えるだろう。


「……ん。単純にMPを貯めることもできるらしい」

「なるほどな」


澄火はそういうと指輪を外し、俺にペンダントを二つ差し出してくる。

付けろということだろうと察した俺はペンダントの一つを自分につけて、一つを澄火の首にかけてやる。


「……ん」


ステータスを解放……俺の加速装置・制限解除インフィニットアクセルをさらに強化できそうだ。

……その分、反動も凄そうだが。


そして次に澄火が取り出したのは、四つの謎の瓶。鑑定不能だという謎の液体が入っている。


「……どうするんだそれ?」

「……ん」


澄火はてってってーと部屋の外に行くと、四つの箱とガラスペンと大きな紙を持ってきた。


……一体何をする気なんだ?


澄火は俺の疑問を気にすることはなく、スマホを見ながら魔法陣のようなものを描いていく。


描き終わると、箱をパカリパカリと開けていった。


中身は、二つセットの指輪……まあどうみてもエンゲージリングだった。


二つセットの指輪のうち片方をぽちゃぽちゃと一つの瓶へとまとめて入れ、もう片方の方は一つずつ別の瓶に入れていく。


そして、三つの指輪が入った瓶を中央に、そして一つの指輪が入った瓶を正三角形の頂点になるように配置した。


全ての作業が終わったのか、澄火はぽすりと俺の隣に腰を下ろす。


すると、ぼうっと魔法陣と瓶が光り輝いた。


「……なんで使い方知ってるんだ?」

「……ん」


呟くと、澄火がスマホの画面を見せてくる。

アメリカダンジョン探索者協会のデータベースだ。

内容は……The study of synthesis of the Dungeon Items。

邦訳すると、ダンジョンアイテム合成に関する研究結果というところか。


かなりビュー数が少ない、マイナーな研究だ。なぜなら、結局この研究は失敗に終わっているからである。

どうやら、澄火はこれを応用して瓶を使用したらしい。


「……さすがだな」

「……ん」


澄火が若干ドヤ顔になっているのが、なんとも可愛らしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る