第1話 起床

「……ん、起きた?」

「……澄火」


目が覚めた。

ゆっくりと目を開くと、見覚えのある真っ白な天井が映る。


「……病院か?」

「……ん。お風呂一緒に入る?」

「……今はいい」


澄火の口ぶりから察するに、今俺たちがいるのは、荻窪ダンジョンで倒れた時に利用した病院のようだ。


俺は体を起こそうとする……が、ぴくりとも動かない。


どうやら、ステータスの限界使用……そしてステータスの限界をバフによって超えるような無茶な体の使い方の反動がきているようだ。


今までにも加速装置・制限解除インフィニットアクセルを使った後に疲労感を感じることはあったが、それとは比にならない重い症状だ。


澄火は目を覚ました俺の体にぎゅっと抱きついてくる。

こっちは怪我人だというのに、結構力が強い。


「……ん。ちゃんと帰ってきてくれて良かった」

「そりゃな。約束したし」


うりうりと額をこすりつけて甘えてくる澄火。体が動かないので、頭を撫でてやることもできなかった。


あの俺が倒れた後、どうなった?」

「……ん。堕天はその場で天使に捕縛された」


堕天のか。

つまり、あの渾身の一撃を受けても堕天は死ななかったわけだ。


俺は軽い無力感を覚える。


「バクは?」

「バクは氷漬けのまま運ばれてった。多分捕縛されたはず」

「それは良かった」


おそらく熊川さんが陣頭指揮をとっているはず。心配する必要はないだろう。


「……被害は?」

「VIPはエルヴィーラ王女も含め全員無事。当日はホテル周辺が交通規制されてたこともあって、スパイやらジャーナリストもどきやら、入り込んでたネズミが何人か死んだくらい」


やはり死者が出てしまったか……


「ホテルの上層階にいた人たちは?」

「……ん。全員、避難したり持ち前の自衛手段を使ったりして無事」

「……そうか」


さすがはVIPの付き添いといったところか、生存能力も並外れた人が揃っているらしい。


「……ただ、交戦した探索者に結構な被害が出た。噂では、序列入りの中に死者が出たとか」

「序列入りの中に死者が……」


それは、かなり深刻な事態だ。


「……ん。今は気にせずに休む」


そういうと澄火はごそごそと俺の布団に入っていくる。そして、ぽすりと俺に頭を預けてきた。


「……そうだな」


一旦目覚めたとはいえ、体が休息を欲しているのかまだまだ眠い。


俺は目を閉じて、澄火の落ち着く匂いと共に再び眠りに落ちた。

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