第10話 天使vs堕天

剣での勝負では埒があかないと判断したのか、天使は手をさっと振った。


天使の周囲に光球がいくつも出現し、そこから大量の鎖が出現する。鎖は一本一本が意思を持っているかのようにのたうち、堕天を拘束しようとする。


「いいぜ、乗ってやる」


それに呼応するように堕天も周囲を剣で薙ぐ。するとどこまでも黒い球がいくつも出現し、そこから黒いビームが飛び出した。


「くっ」


俺のアム・レアーとは違い、発車後に軌道を変えられるのか、あるいは誘導がもともとついているのか、飛び回って回避しようとする天使を黒いビームはどこまでも追いかける。


「はあ!」


天使が振り返り、気合いと共に剣でビームを一息に切り裂く。


「甘いぜ!」


その隙を見逃さず、堕天が天使へと切り込む。間一髪防御は間に合ったが、その威力を殺すことはできず、天使は地面へと叩きつけられた。


「……まずいな」


ふっと俺に側にあった水上さんの気配が消え去る。直後、水上さんの姿は堕天の目の前にあった。


「今度はお前が相手をするのか?」

「いーや。ただの時間稼ぎだよ」

「ふん」


堕天は手を振る。凄まじい量の黒いビームが生み出され、嵐のように水上さんの降り注ぐ。


水上さんはそれを瞬間移動することで避け、チャンスを狙う。


「甘いんだよ」

「そっちがな」


水上さんの出現位置を読んだ堕天が剣による攻撃を仕掛けるが、水上さんは一瞬速く離脱し、カウンターの一撃を入れる。


そして、地面から復帰した天使がそれに追随する形で攻撃を入れる。


「はっ」


堕天は上空へと大きく吹き飛ばされたが、攻撃をする天使を死角として利用した堕天のビームが、水上さんに着弾した。


「ぐっ」

「隼人!」


力を振り絞って俺たちの側に転移してきた水上さんを、熊川さんが癒す。結構な重傷を負っていて、内臓がこぼれ落ちかけていた。


水上さんレベルでも、一瞬交戦しただけでこれだけの傷を負うのか……


「……俺なら大丈夫だ。それより、他の序列入りは?」

「……しばらくはこなさそうね。少なくとも十位までは」

「そうか」


上空では、天使と堕天の、神話の一節の如き凄まじい戦いが続いている。


一見競り合っているように見えるが、よくよく見ると天使の方に余裕がない。


原因はもちろん、俺たちだろう。被害を気にしなくてもいい堕天と、周囲を気遣いながら戦う天使。

一つ一つの技のキレに、明確な差が出てしまっている。


「……俺がやらなきゃ、だな」

「……若槻くん?」


俺は熊川さんに答えず、無言で立ち上がった。

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