第2話 能力

「……ふむ。やるじゃないか。だが……」


傷を作るそばから焼いてしまったため、傷口そのものは小さい。が、凄まじい温度になるまで熱された刀に斬られる際に激痛が走ったはずだ。


だというのに、忘剣は気にするそぶりすらなかった。


「させな……」

「行け、ケルべロス」

「……!?」


俺は寒気を感じ、背後へ飛ぶ。

一瞬後、俺のいた空間に犬のような生物が三匹、噛み付いた。

顔は犬だが、足がなくまるで煙のように体が透けて揺らいでいる。


「……お前の能力……煙か?」


煙……ならば、この男の能力に説明がつく。あの不自然なほどに大きな大剣にしろ、その修復能力にしろ、この犬にしろ……見えざる手さえも。


「さあな」


そう言いつつ、一瞬で大剣を再生させる忘剣。


「だからなんだというのだ?」


俺はその問いに、武器を変更して応じる。

紅刀から……蒼刀へと。


相手が不定形の煙ならば……炎より氷の方が良い。


「氷花雪界」


俺は刀にMPを込め、一気に振り抜く。

すると、ケルベロスと呼ばれた煙状の犬たちが一瞬で凍りついた。

しかし忘剣はどうやってか俺の攻撃を防いだようだ。


……だが、これで対処法は見つかった。


俺は刀にMPを込め、冷気のフィールドを自分の周囲に展開する。


「ふむ……だが、それでは俺の剣は止められん」


忘剣はそういうと、こちらに切り掛かってくる。先ほどとは違う、攻撃的なスタイル。

俺は受け止めようとするのではなく、回避優先で動き、カウンターの一撃を入れる。


不意に俺は背筋に悪寒が走り、ニャルトラ・ステップで宙を蹴った。


一瞬の後、俺の側を何か大きなものが通り過ぎる。忘剣の手には、半ば凍りついた大剣があった。


どうやら、大剣を振り抜いた反動を物ともせずに、投げつけてきたようだ。


当たっていたら、間違いなく重傷を負っていただろう。


忘剣は大剣を構えて俺の視界から消える。

俺は忘剣のスピードに合わせ、加速装置を起動する。


上!


上から迫る大剣を、俺は二刀で迎撃する。

下は澄火の結界だ。なるべく、攻撃を当てたくはない。


「……ふん」


忘剣はそのまま大剣を手放して蹴りと拳を連打してくる。


細心の注意を払ってそれを丁寧に捌いていくが……


「ぐっ」


俺の肩に拳が命中し、俺は大きく吹き飛ばされた。


「……ステータスもある。いい武器もある。手札もある。それに……第六感も優れているようだ。だが……戦いの基礎がなってない。だからこうなる」


……勝てない。


今の俺では、到底勝てる気がしない。

俺の持つ手札の一切が……こいつには通じない。


「まあ勘弁してやれよ、しん。お前こそまだなんでそんなことやってる?」

「……水上」

「水上さん!?」


俺前に、いつのまにか水上さんが立っていた。


「日本ダンジョン探索者協会東京支部支部長……人呼んで『瞬剣』の水上……只今参上。さて、片付けるとするか」

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