第7話 エメラルド

その後種々の武器が紹介されて、1日目は終了した。特にトラブルもなかった。


そして2日目。


司会進行に登場したのは、初めて見る探索者だった。


「本日の司会進行を務める日本ダンジョン探索者協会所属探索者……倉山一郎と申します。よろしくお願いします」


白髪が目立つ初老の男性だ。しかし、なんとも言えない凄みを感じる。


「本日の品は世界のダンジョンより発掘された美術品の数々……記念すべき一つ目は、こちら」

「……ん」

「おっと」


とても見覚えのあるものが壇上に登場した。


「日本のあるダンジョンから発見された翠玉にございます」


翠玉というのは確か、エメラルドの日本名である。


「見ての通り、内部には一才の不純物や泡はございません。しかも、あの有名な宝石「カリナン」をもしのぐサイズ。また、表面は現代技術では再現不能なほどに滑らかです。

「加工して芸術品にするもよし、その大きさを以ってその価値とするもよし。全ては落札したあなた次第です。

「最低落札価格は500万から。では、落札スタート!」

「…………500万」

「1000万」

「5000万」


どんどんと値段が釣り上がり、あっという間に俺たちの総資産価格を突破した。

値段の釣りあがりは止まらない。

どうやら、各国の美術館や、金を持て余したマダム、そして国宝にしようとしている国の三者が競っているようである。


最終的に残ったのは、アメリカの三大美術館––––ボストン美術館、メトロポリタン美術館、シカゴ美術館––––の代表たち(一昨日挨拶した)、そして来栖財閥の代表、そして数国の国家代表であった。


値段はすでに50億を突破している。まだまだ品はあるというのに、凄まじい滑り出しである。


そしてその最終的な結果は……92億5500万円での、来栖財閥の落札である。

落札後の挨拶によると、今後作られる来栖美術館の常設展示の目玉として使われる予定のようだ。


「一気にビリオネイアになったな」

「……ん」


ちょっと実感できないくらいの大金が流れ込んできた。

あとで聞いたとことでは、ダンジョンからの宝石の産出––––それもあんな大きさのものは、意外と少ないんだそうだ。

それで、あの値段ということらしい。


「ふふふ。あとで、来栖さんにご挨拶に伺いましょうか」

「そうですね」


せっかくだし、そうしたほうがいいだろう。


「次の品は、こちら!ダンジョンで発掘された、亜空間に物が収納できるアイテム……その名も、アイテムボックスです!」


ダンジョンに登場したのは、一片が20cmほどの一つの箱だった。


「アイテムボックス……」

「なんとその効果範囲は、ダンジョンでは40mに拡張されます!種類を選択して収納することも可能!探索のお供にいかがですか?」

「……澄火」

「ん。したいならしても」

「不要ですわ」


と、俺と澄火の会話に割り込むエルヴィーラ王女。


「もう終わりましたから」


……もう終わった?


「星野さんと若槻さんになら渡せそうです……今は落札を見守りましょう」


各国の探索者による熱いバトルの結果、アメリカのダンジョン探索者が32億円で落札した。

凄まじい金額だが、先ほどの俺たちの宝石ほどではない。


おそらく、ダンジョンの遥か下の層ではそれなりにメジャーな発掘品なのだろう。

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