第5話 人脈

2階はすでに多くの人がいた。

一つ一つの所作が綺麗で、いかにも上流階級といった人たちが多い。


エルヴィーラ王女は会場に着くと美しいカーテシーを決めて挨拶をして中に入る。


最初に向かったのは、大和撫子然とした日本人の女の子––––おそらくは俺たちより一つか二つ上––––のところだった。


「ごきげんよう、来栖さん」

「あらごきげんよう、エルヴィーラ王女」


ナチュラルにごきげんようという挨拶が登場して俺は少し驚いた。

本当にやる人いるんだ……


「……そちらは?」

「わたくしの今の護衛ですわ」


「……なるほど。外見からはあまり強さを感じませんが……おそらく、途方もない力を持ってるのでしょうね。来栖財閥を統括する来栖家次期当主、来栖玲奈と申します」


いわゆる財閥令嬢というやつか。

エルヴィーラ王女とは少し種類の違う知性の光を感じる女性だ。


「探索者の若槻翔と申します

「同じく探索者の星野澄火と申します」

「若槻さんに星野さん。よろしくお願いしますね。もし私の財閥……来栖財閥から依頼があれば、受けていただけると助かります」

「機会があればぜひ」


迂闊にはいと答えると何やら面倒なことになりそうなので、俺はうやむやに誤魔化すことにする。


「エルヴィーラ王女は、今もあの島で?」

「ええ。なかなかにいい暮らしですよ……景色もいいですし」

「私には理解できないですけどね……」

「ふふふ。ライフスタイルは人それぞれですわ……それより、先日の商談の件ですが……」


そこからは専門的な話が入り乱れたので割愛する。


次に挨拶に向かったのは、いかにも王子様といった感じの白人男性だった。かなりのイケメンだ。


「これはこれはエルヴィーラ王女。今日もご機嫌麗しく」


ここが日本だからか、その男性はエルヴィーラ王女に日本語で話しかける。


「そちらこそご機嫌麗しく、ダザーラ王子」


あとで聞いたところでは、レイヴァント王国の一番の友好国、アイヴン王国の王子らしかった。


「……そちらは?」


俺は問いかけられたので、先ほどと同じように挨拶をする。そして、いくつか世間話をして、俺たちはその場を離れた。


その三十人ほどと挨拶をした後、エルヴィーラ王女は会場を後にした。

部屋に戻ると、待機していたローズさんによってすでにエルヴィーラ王女が休める環境が整えられていた。


エルヴィーラ王女はソファに座り、お気に入りのグレープジュースを開ける。


「ふふふ。どうでしたか?社交界は」


社交界……そうか、あれが社交界なのか。

今更ながら俺は気づいた。


「エルヴィーラ王女、ひょっとして俺たちのために……?」

「ふふふ。どうでしょうか……一つアドバイスですわ。今日あった人の名前は全て覚えておくことをお勧めしますわ。いざという時、役に立つでしょう」

「……ありがとうございます」


正直このパーティだけで、護衛の対価としては十分過ぎるほどだ。

エルヴィーラ王女の形のない贈り物……大切にすることにしよう。

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