第4話 ワープスキル

そんなこんなでホテル・グランドクリスマスへと到着した。


部屋は高層階……13階の一室である。


俺とローズさんが先に部屋の前に入り、誰かが隠れていたりしないか、あるいは盗聴器や爆弾といったものが仕掛けられていないかをチェックしていく。


結果、盗聴器が三つ発見された。熊川さんがうまいこと手配してくれたはずなんだが……一体、どこからこんなものを設置したのやら。


「エルヴィーラ王女、こういったものの解析は?」

「勿論できますわ」


エルヴィーラはそういうと、回収した盗聴器をじっと見つめる。

先ほどと同じように、その美しい瞳に未知の文字が多数現れては消えていく。


「……ハンドメイドではなく、既製品をそのまま使ったもののようですわね……型はバラバラですが、作成場所はすべて、アメリカの一地方の工場……おそらくは何の関係もない場所でしょう……設置したのはホテルの従業員……名前は、蔵春樹」


そこまでわかれば十分だ。


「熊川さんに連絡しときます」


俺はタブレットを取り出し、日本ダンジョン探索者協会アプリを開いてメッセージシステムを起動する。


若槻:部屋に盗聴器が仕掛けられていました。犯人は蔵春樹の模様

熊川:調べたけど、そんな人間はいないわね……偽名を使っているか、外部の人間の犯行の可能性が高いわ。


相変わらず返信が早い。この量の文章を一秒とかからず––––しかも調べ物までして––––送ってきた。


若槻:了解です。引き続き警戒を続けます

熊川:頼んだわよ


「外部の人間の犯行の可能性が高いとのことです」

「……なるほど。おそらく、ワープスキルか……それに類する能力の持ち主なのでしょう」

「ワープスキル……」


持ち主の姿はみたことがないが、ワープスキルそのものなら三度ほど見たことがある。

一度目は、「解放者」に所属する忘剣の肉体が赤い液体となって消えた時。

そして二度目は、黒子ビハインドザシーンに所属していた組川ハルが使っていたあの扉。

そして三度目が……


「あれ、王女の部下の方の中にもワープスキルを持った人がいるのでは?」

「……ええ。しかし、彼の移動は短距離に留まりますし……どちらかといえば、方向指定のダッシュといった方が性質的には当てはまりますわ」

「なるほど」


今回組織が襲撃をかけてくるとしたら、間違いなくその能力を使ってくるだろう。


「では一息ついたところですし……早速挨拶回りに参りましょう」

「了解です」


このオークションというものは、上流階級の顔つなぎの場としての役割も勿論ある。

そのため、二階のラウンジフロアは常に開放されているのだ。


俺は念の為アム・レアーを部屋に2つ解き放ってから、部屋を出るのであった。

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