第9話 咲良さん

俺に向かってボクシング選手のような美しいフォームで拳を放ってくるモンスター。


––––加速装置・制限解除インフィニットアクセル知覚センス


俺はあえて知覚のみを限界まで加速させる。周囲がスローになったまま、針のような繊細さを以って拳にニャルトラ・ステップを合わせる。


そして加速解除。

斬撃モードになっていたニャルトラ・ステップを伴った蹴りが、その拳をズタズタに引き裂きつつモンスターを吹き飛ばした。


「……ふう」


先ほどからこんな方法で戦ってばっかいるので、大分疲労が溜まっている。


澄火の方は、特にそんな苦労はない……が、元々が強力なモンスターばかりなので結構苦戦しているようだ。


「……早く誰か来てくれないかな」


流石にこのままだと少々まずい。

……と、着信が。


「はい」

「現在そちらに序列入り探索者が急行中です。それまで耐えて……」

「もう来た」

「……はい?」


どん、と上から誰かが降ってきた。手には、赤々と燃え盛る一振りの刀を持っている。


「待たせたな」

「……咲良さん」


俺たちと同じマンション「Star Elements」に入居している探索者が、空から舞い降りた。


おそらく手に持っている刀は、ユニークスキルから生まれたものだろう。

同じユニークスキルを持つ身だからこそわかる、「格」のようなものがある。


「ふむ。なかなか強力だが……私の前では敵ではない」


一閃。


咲良さんが右手を振った瞬間、全てのモンスターの首が飛んだ。よく見ると、切り口でチロチロと炎が燃えていたり、焦げ目があったりする。


おそらく炎を転移させるか、あるいは見えない鞭のように変化させて薙ぎ払ったのだろう。


結構な耐久力を持つモンスターたちだったはずだが、こうも簡単に首を切断しているのはすごい。


「まだまだ!」


咲良さんはそういうと、手のひらに意識を集中させる。そして、「はあ!」と業火をダンジョンの方へと打ち出した。


炎はダンジョンの中で派手な爆発を起こし、そのまま凄まじい勢いで燃え始める。


「これで当分は出てこれないだろ。この間に、戦況を整えるぞ……とりあえず、周囲の生存者の捜索をして戦闘空間を確保からだな」


咲良さんはおそらくこういう状況に何度も遭遇したことがあるのだろう。なれた様子でそう言った。


「はい!」


とりあえず、今は従っておけばなんとかなりそうだ。俺は早速、周囲に誰かいないか探し始めるのであった。

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