第7話 器物損壊罪

俺は着地して、先ほどと同じようにニャルトラ・ステップでモンスターを蹴り、ダンジョンの入り口へと叩き込んでいく。


「うお!すげー!」

「これ絶対バズるだろ!」

「避難してください!」

「うっせ!別に大丈夫だろ!死んだらあの人の責任だし!」

「………………」


なんだか避難を呼びかける人と避難しない人が揉み合うような声がしている。

自己承認欲求も、ここまで来ればもはや病気である。


俺は自重するのをやめることにした。


ニャルトラ・ステップを非殺傷モードから斬撃モードに切り替えて、モンスターを蹴り上げる。


ズシャッと嫌な音を立てて、モンスターが二つに切り裂かれる。


「うわっ」

「これ虐待だろ!」


しかし、俺の予想に反してあまり動じた様子はなかった。俺の想定では、これにビビって……あるいはドン引きして、蜘蛛の子を散らすように逃げ出すはずだったのだが……


「……仕方がないか」


俺はアム・レアーを起動して、出力を最低に設定。彼らが手に持つスマートフォンに照準を合わせる。


––––Shot!


粉々に砕け散る、スマートフォン。


もちろん、器物損壊罪……三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料になる行為である。


「あ!おい、俺のスマホ!」

「おい!どうしてくれるんだ」

「……あ?」


俺は衝撃モードにしたニャルトラ・ステップで思いっきり地面を踏みつける。

どうん、という轟音が鳴り響き、騒ぎ立てるものを一瞬で静寂へと引き摺り込んだ。


最初からこうしておけばよかったような気がする。


「……俺が魔物を押さえておく。だから、とっとと逃げろ。いいな?」


こくこくと彼らは首を縦に振って、すごすごとアウトレットから退散していった。


……さて。


澄火だけに任せるわけにはいかない。俺もそろ活躍するとしよう。


俺は地道に澄火の死角となる場所を回ってモンスターを撃退していく。


……と、右耳に差したままのイヤフォンから発信音が鳴る。イヤフォンを抑えて電話に出ると、先ほどのオペレーターさんだった。


「どうしました?」

「何やってるんですか一体!民間人のスマホを壊すなんて……イラついたのはわかりますが」


早速怒られてしまった。情報が早い……さっきの人が公衆電話とかで通報したのかもしれない。


「全く……日本ダンジョン探索者協会全体に泥を塗る行為ですよ!」


その後俺は戦闘中だというのにひとしきり怒られた。まあ、当然の帰結だった。

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