第6話 避難
「強いな……」
今までたいていのダンジョンでは俺が前衛、澄火が後衛というスタイルでやってきたので、実は澄火の戦闘をじっくり見るのはこれが初めてである。
澄火は全身に紫電を纏わせて縦横無尽に暴れ回っている。どうやら、俺の位置から死角になりやすい位置を回って被害を抑えようとしているようだ。
残念ながら、避難は遅々として進んでいない。
まず、パシャパシャと戦闘中の澄火と俺を撮影するもの。
次に、俺たちがモンスターを倒しているから大丈夫と特に避難とかせずに買い物をしているもの。
そして、火事場泥棒をしようとしている人とそれを諌める人。
最後に、自分だけ逃げようとして結果として集団の流れを断ち切っているもの。
いろんな要因が重なり、全く避難が始まる気配がない。どうやら、集団行動のできる日本人というのはメディアによって作られた虚像だったようだ。
「……はあ」
俺はため息をついて、ポケットから片耳のイヤフォンを取り出し、日本ダンジョン探索者協会へとかける。
「……はい」
「こちら若槻。現在対応中のダンジョン災害について情報共有がしたい」
「……かしこまりました。では、まずはこちらから。現在、付近のダンジョンを探索中だった探索者が自衛隊と共にそちらへ向かっています。陸上自衛隊の航空部隊は出動が見送られました」
「……何分後に到着予定だ?」
「渋滞に巻き込まれているため、不明です」
おいおい……
「警察は?」
「警察は現在付近の住民の避難に追われています。一隊がアウトレットへ向かっていますが……」
向かっている?
俺はぐるりと周りをみわたす。
––––あ、いた。
気が付かなかったが、遥かかなたで警官が誘導をかけようとしている。
ただ、こちらも見事に失敗している。
……全く。
まさか威嚇射撃をして下がらせるわけにもいかないし、どうしたものか。
と、澄火がぴょんぴょんと飛んでこちらへと帰ってきた。
「……ん。変わってほしい……」
「……了解」
はあはあとかなり荒く息を吐いている。どうやら、体力が限界を迎えたようだ。
少し官能的なそんな姿に俺は目を逸らし、俺は下へと降りた。
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