第2話 ホットケーキ

息が苦しくて目が覚めた。

もがきながら俺の呼吸器官を使用不能に追い込んでいる二つの膨らみを鷲掴みにし、なんとか起き上がる。


「……一体なんだ?」


チラリと下を見ると、胸を鷲掴みにされた澄火がすやすやと眠っていた。


––––眠る少女の胸を鷲掴みにする狼藉者……


絵面がやばい。

俺は手から伝わってくるなんだかフヨフヨというかふわふわというかそんな感覚をシャットアウトし、慌てて手を離す。


「んや……」


その振動が伝わったのか、澄火が小さな呻き声をあげてゴロリと寝返りを打った。そのまま俺の使っていた枕を抱きしめて、再びスヤスヤと寝息を立て始める。

どうやら、まだ澄火が起きるまでには少し時間があるようだ。


俺はベッドから抜け出して身だしなみを整えつつ、日本ダンジョン探索者協会のアプリを開く。


特にダンジョン災害は発生している気配はない。戦死者もいないし、緊急クエストもない。特に俺たちが動く必要のある案件はなさそうだ。


俺はタブレットを閉じ、一応スマホに着信がないか確認してから少し遅めの朝食の準備に取り掛かる。


今日のメニューはホットケーキだ。

ホットケーキミックスには頼らずに、小麦粉から作っていく。こう見えて、意外と料理は得意なのだ。


下準備を済ませ、いざ焼こうというタイミングでちょうど澄火が起き出してきた。


「クリームたっぷりか?」

「……ん」


澄火はこくりと頷くと、椅子を引いて座る。


俺は冷蔵庫からホイップクリームを取り出し、先ほど作ったカスタードクリームと一緒にたっぷりと焼けたホットケーキの上に乗せる。

澄火は意外と甘党で、ホットケーキもこうやって食べるのが好きなのだ。


「ん。いただきます」


澄火の前にそれが乗ったお皿をことりとおくと、澄火は美味しそうにそれを食べ始めた。


女子高生が食べるには結構暴力的なカロリーをしているが、澄火は特に気にする様子もない。


「じゃあ、俺も食べるかな」


俺も、澄火の食べる姿を見て食欲が湧いてきた。

早速いただくとしよう。

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