第1話 守ってあげる

その夜。

水上さんに紹介してもらった回らないお寿司屋さんに行き、ちょっと目を疑うような会計にドギマギしつつも寿司を堪能した俺は、マンションにつくなりベッドに倒れ込んだ。


「……ん、だいじょぶ?」

「だいじょばない……」


体を動かそうという気力が全く湧いてこない。肉体……というより、精神がもう限界に近い感じだ。


「……お風呂入れてあげよっか?」


澄火はそういうとヒョイっと俺の体を持ち上げる。


「いや、それくらいは自分でやるよ」


俺は澄火の腕の中から脱出して這うようにお風呂へと進む。


「……遠慮しなくてもいいよ?」


そういうと俺は澄火に再びひょいっと持ち上げられた。

今度は俺が逃げ出さないように、しっかりと拘束されている。

気力を失った俺にはもはや抵抗する力もなく、大人しくお風呂へと連行されるのであった。


––––そして数十分後。


洗われてしまった俺は、同じくお風呂に入った澄火と共に床についていた。

体を動かす気力もないくせに、意外と眠気は湧いてこない。


「…………ん。眠れない?」

「まあ」


俺の様子に気づいた澄火はそういうとくるりと寝返りを打ってこちらを向き、じっと俺の目を覗き込んでくる。


「……人を殺したから?」

「そうかもな」


平和な日本では、生きるために人を殺す必要はない。

そんな甘ったれた環境で育った俺にとっては、当然今日勇者を殺したのが初めての殺人だ。


「ん。あれは人じゃない。アンデッドか何か」

「……いや、アレは……いや、彼は間違いなく人だった。人間らしい人間と言ってもいいほどにな」

「……かもね」


澄火はそういうと、グイグイと俺の肩を押して布団の中へ沈めてくる。

そして、むぎゅっと俺の頭を抱きしめた。むにゅむにゅと柔らかな二つのクッションが俺の頭を優しく包みこむ。


「……ん。落ち着いた?」

「……まあ」


ほのかな甘い匂いとも相まって、無意識に強張っていた俺の手足が弛緩していくのを感じる。


「大丈夫。何があっても、守ってあげる」

「……ん」


今日は大人しく甘えさせてもらうしよう。


俺は澄火の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。


甘い匂いと温もりに包まれ、俺は眠りへと落ちていくのであった。

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