第2章 ダンジョン災害

プロローグ

「……で、この宝石をどうしたら?ということよね」

「はい」


俺はこくりと頷いて拳大のエメラルドを示す。


「んー……」


熊川さんはひょいっとそれを手に取ると、どこからか取り出したルーペで表面を見分する。

多分、俺が持っているピンセットと同じようにダンジョン産のものなのだろう。どういう原理か、かなり広く倍率を変えることができるようだ。


「……表面には傷一つなし、と。どうやら本物のエメラルドで間違いないようね」


熊川さんはそういうと、光の玉を空中に浮か、エメラルドを透かし、宝石の中を確かめる。


「……中に傷も気泡もなし。……異常に綺麗な宝石ね」


チェックを終えたのか、熊川さんが宝石を戻してきた。


「ここまで完全なエメラルドは世界に二つとない……正直、いくらになるのか検討もつかないわね」

「買い取ってはいただけない感じですか?」

「うん。そんな予算はないし、値段もつけらんない。あえてつけるとしたら……時価ってとこかしらね」

「時価……」


回らないお寿司のお店であるという伝説のアレか。


……っていうか、稼ぎだけで言ったら俺たちもそういう店に行けるのか。ちょうどいいし、あとで熊川さんに紹介してもらうことにしよう。


「……んん」


と、俺の膝に頭を乗っけてスヤスヤと寝ている澄火が寝返りを打った。どうやら、宝石を受け取る時の微かな振動に反応したようだ。


俺は頭をよしよしと撫でて澄火を落ち着かせる。


「……甘やかしてるわね」

「まあ、相棒なので……それで、この宝石どうしましょうか」

「……んー……いつか君たちならここに辿り着くだろうとは思ってたけど……こんな早くとはね」

「……?」


熊川さんはごそごそと机の中を漁り、2枚の紙を見せてくる。

一枚は、布のように厚い紙。そしてもう一枚は、いわゆる偽造防止用紙だ。


「オークションへの招待状……と、オークションへの出品届。招待の名義は、私にしとくよ」


そういうと熊川さんはサラサラと布のように厚い紙の方にサインし、俺と澄火の名前を書いてくれる。


「……オークション?」

「うん。ダンジョン探索者協会連合主催オークション……通称、ダンジョンオークション。三ヶ月に一回開催されることになってる、主にダンジョン絡みの品が扱われるオークションだよ」

「……なるほど」


市場に流せないレベルの危険物や高価すぎるもの、その他色々訳ありなものが出品されるのだろう。

なかなか楽しみだ……ひょっとしたら、エルヴィーラも来るのかもしれないし。


「ふふ。まさか探索者になって二ヶ月も経たないうちに参加するものが現れるとはね。じゃあ、この宝石は預かっとくわ。これ、出品票ね」


そういうと、熊川さんはこれまた偽造防止用紙で作られた出品票を渡してくれた。


「はい。ありがとうございます」

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