第13話 ムラクモ

俺は攻撃の合間を縫ってニャルトラ・ステップにMPを込める。


「はああ!」


そして邪勇者との間の蹴り上げた。


どうん、と空間が破裂し、勇者を吹き飛ばし、俺もその反動を生かして後方へと飛ぶ。


そして、蒼刀を納刀し、右手に持った紅刀の切先を勇者へと向ける。


––––閃撃・突


「……ん、助ける」


そんな声が聞こえたかと思うと、俺の全身に澄火の紫電のエネルギーが注入される。


そのままステータス出力を全開にし、大勢を崩した勇者めがけて突進する。


狙いは……「ムラクモ」を持っている右手だ。  


加速装置・制限解除インフィニットアクセルと紫電の加速が乗った紅刀の切先は、すぱあん!と気持ちいい音を立てて邪勇者の右手を切断した。


ムラクモごと、右手が宙を舞う。


「ぐおああああ!」


邪勇者は触手でそれを捉えようとするが、予測していたのであろう澄火が紫電によってその目論見を打ち砕いた。


俺は「ムラクモ」を手に取り、柄に手をかける。


こいつ邪勇者は世界の敵だ……お前にこいつを討ち滅ぼす力があるのなら……俺に貸してくれ、その力を……!」


ぐっと手に力を込める。すると、あっけなくムラクモを引き抜くことに成功した。


膨大なエネルギーが刀が溢れ出し、オーラとなって俺の体にまとわりつく。


––––体が軽い。それに、加速状態にもかかわらずどんどんとMPが回復していく。


ニャルトラ・ステップを起動して空間を蹴る。

邪勇者の反応できないレベルの速さで動き、15連撃をムラクモで叩き込む。


まるで豆腐を切るように邪勇者の触手を根本から切り裂く。


「貴様……!」


触手を切り裂いたところで少し理性が戻ったのか、勇者が憎々しげにこちらを見る。


「……どうやら、お前は世界の敵だったようだな」


俺はムラクモを構える。


––––次で終わらせる。


「俺が邪神を倒すため……どれだけ努力したと思っている……なのにこの扱い?おかしいだろ……」

「…………」


俺はニャルトラ・ステップにMPを込めて、空間を蹴った。


勇者の体を斬って、斬って、斬りまくる。


原型がなくなるまで。その体が生命を保持できなくなるまで。

勇者すら認識できないスピードで、ひたすら斬り続ける。

大体千回は斬り、俺の体が悲鳴を上げかけたところで俺は一旦、加速状態を解いた。


勇者の肉体が、肉片すら残らず赤い霧となって空気へ溶けていく。

ぶわりと風が吹き、かすかに残った生臭い匂いすらどこかへ消えてしまった。


「……ん。倒せた?」

「みたいだな……」


俺はムラクモを持ち上げてみる。


壮絶なまでの美しさを感じさせる剣だ。玉虫色……というのだろうか。太陽の光を浴びて、金緑や金紫にキラキラと輝いている。


と、邪勇者を倒したからだろうか、役目を終えたとでも言わんばかりにムラクモの鞘が勝手に持ち上がり剣を包んだ。


「……行くか」

「ん」


と、澄火が俺に何かを渡してくる。


金色の短剣だ。刃渡りは大体、拳三つ分くらいか。中心部分に、大きな赤い宝石がはまっている。

そっと引き抜くと、べっとりと血糊が付いていた。どうやら勇者を仮死状態にしたという、短剣のようだ。


俺は紅刀の濃口を切り、炎の力で血糊を焼いていく。パラパラと炭と化した血糊が地面に落ちていく。

すると、刃こぼれ一つない綺麗な刀身が現れた。


俺は短剣にそっとMPをこめてみる。


……特に何も起こらなかった。


勇者を仮死状態にまで追い込んだのだから、間違いなく何らかの特殊な能力が眠っていると思うが……俺にはわからなかった。


「……エルヴィーラにプレゼントするか?」


俺の脳裏にふとそんなアイデアが浮かぶ。


エルヴィーラならこの短剣の力を見抜き、的確に使ってくれるだろう。


「ん。好きにすればいい……帰ろ」


澄火はそういうと俺たちが来た方向を向く。


「ちょいまち」

「…………?」


実はまだ一つ、やることが残っている。

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