第12話 邪勇者
「解放」と言った勇者の体にオーラがまとわりつく。俺がつけた傷がそれによって癒えてしまった。
ゲーム風にいうなら、「自動回復」のバフがついた……とでも言えるだろうか。
「あ、まず」
我が相棒のそんな声が聞こえたかと思うと、上から淀みが降ってきた。
「アム・レアー!」
アム・レアーの攻撃を全く意に介さずにその澱みは勇者へまとわりつくと、勇者の体を変質させていく。
太った体はより筋肉質に。顔はより醜く。そして、背中からは大量の触手を生やした。
「おいおい……」
「……ん。ごめん」
澄火は俺のそばに降り立つと、そう言ってしゅんと項垂れた。
「いや、多分あの『解放』がトリガーになっていたんだろうな……」
俺はそう声をかけ、よしよしと澄火の頭を撫でる。戦闘中だが、相棒のメンタルケアも立派な戦いの一部だ。
「……ん」
澄火は少し元気を取り戻すと、勇者の方向を見る。
もはや化け物としか言いようがない体になったそいつは、俺たちに向かって「ぐあおおおおおお!」と唸り声をあげる。
「……ええ」
澄火はドン引きしたように身を引く。
俺は二刀を引き抜き構える。
「澄火、後衛を頼めるか?」
「了解」
そういうと、澄火は両手に紫電を纏わせる。
「行くぞ」
加速装置を起動し、目眩しがわりにアム・レアーを乱射しながら邪神の力を纏った勇者……邪勇者へと突進する。
邪勇者は体から生やした触手を俺に伸ばして対応してこようとする。
––––閃撃・乱
俺は一次的に加速し、迫る触手の全てを一息で切り払う。
しかし先ほど見せた勇者の回復力がそのまま触手にも乗っているのか、触手は瞬時に回復してしまう。
「……まず」
俺は触手ごと突っ込んできた勇者の打撃を受け止める。
「ぐあおおおお!」
型も何もない動きでひたすら鞘に収まったままの「ムラクモ」で殴りかかってくる勇者。
「触手は任せて」
澄火が紫電で触手を抑えてくれているので、俺は集中して勇者の打撃を受け止める。
…………しかし、このままだとまずい。
澄火の攻撃はMPに依存しているため、この加速状態のまま戦うのは危険だ。
勇者の『解放』にはおそらく反動とか制限とかがあると考えられるが、
できればこのまま受け身ではなく、何か有効となる一撃を叩き込みたいところだが……
俺は思案する。
現状有効だと考えられるのは、勇者を仮死状態にしたという帝国に伝わる『宝剣』だろう。
この中庭のどこかにある可能性もあるので、できれば見つけたいところだが……
「ぐあおおおああ!」
俺は邪勇者を見る。
コイツは、間違いなく……世界の敵だ。
ならば……
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