第5話 紫の人間
特に問題なく36層まできた。
全ての階層が洞窟であり、特筆すべきことは何もなかった。難易度もユニークスキルを持っている俺たちからすればそこまで高いものではない。
しかし、次の36階層はそうはいかなかった……ボス部屋があると思っていた俺たちを待ち受けたのは、超広大な草原だった。振り返ると、まるでどこでもドアのようにポツリと扉が置いてある。
以前こういう草原系のマップに飛ばされた時は目印を示すように高い塔があったような気がするが、そんなものはなさそうである……
さてはて、どうしようか。
「どうする?」
「んー……」
流石の澄火も困ったような感じだ。
「……ひとまず進んでみるか」
俺は来た道を見失わないようにしつつ、適当な方向へと走り出す。
加速状態とはいかずとも、ただ走るだけで結構なスピードが出る。大体、新幹線くらいのスピードは出てるんじゃないだろうか。
「ん。気持ちいい」
澄火もゆうゆうと俺のスピードに追いつき横を疾走している。
「……モンスターか」
前方にモンスターを発見した俺は、靴にMPをこめる。
「はあ!」そして思いっきりモンスターを蹴り抜いた。
すぱあん、という音がしてモンスターが爆発四散する。
説明書には「蹴り強化することができる」と書いてあるだけでどういう挙動をするかはわからなかったが……なるほど、どうやら爆発を起こすらしい。
もしかしたら、モードを切り替えられるかもしれない……そこら辺は要検証だ。
「……誰?」
と、そばに雷球を浮かべていた澄火が急にそう明後日の方向を向いてそう言った。
俺は刀の手をかけ、警戒体制を取る。
「出てきて。さもなければ……」
澄火はそういうと、バチバチと腕に紫電を纏わせる。
その様子を見て観念したのか、ぬるりと虚空から紫色の肌を持つ人間が出現した。奇妙な紋様が書かれた仮面をかぶり、同様の服を着ている。
「……あなななには、なにものねすか?」
それはこちらに話しかけてくる。
「……俺たちは、探索者だ」
「なんさくしゃ?それはいっないなんねすか?」
「えっと……」
どう説明したものか。多分だが、この人には探索者という概念が存在しなさそうだ。なんなら少し日本語もおかしい気がするし……
なんだろうか。この、何かがずれているような感覚は。
「……ひょっのして、いほうじんですか?」
「異邦人?」
一体なんのことだ?
「……異邦人とは異邦人ねす」
「…………?」
「いいねしょう。おなまえはなんねすか?」
「……翔」
「…………澄火」
なんだかちょっと名前を教えるのが不安だが、ともかく俺は名乗った。
「……わかりましな。あなななににはねきいはなさそうねす。わがさのへごあんないしましょう」
今のは何かの試験だったらしい。
紫の人間はそういうと、くるりと踵を返すとてってってっと走っていく。
俺たちは顔を見合わせると、紫の人間の跡を追った。
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