エピローグ

「お世話になりました」


翌日のお昼。

俺たちは屋敷の前で、エルヴィーラ王女から見送りを受けていた。


「ふふ。また来てくださいね?」

「ええ。必ず」

「絶対ですよ?」


そういうとエルヴィーラ王女はこちらにウインクを送ってくる。

美しい瞳とも相まって、とても愛らしい仕草だ。


「一ヶ月後くらいにまたお会いしましょう」

「はい。では、我々はこれで。ヴァイオレットさん、案内をお願いします」

「了解しました」


ヴァイオレットさんはそう言って一礼すると、「機械の塔」へと歩いていく。

俺たちもエルヴィーラ王女に一礼して、ヴァイオレットに追随する。


ヘリに乗り込むと、この島に来る時と同じようにヴァイオレットさんが扉を閉める。そして、ヘリはヒースロー空港へと飛び立った。


「……ん。なんか、随分と仲良くなってた?」


しばらく経ってから、澄火が突然そんなことを言い出した。


「…………まあ、色々と話してな」

「庭園で?」


なんで知ってる。


「今日起きた時、若くんから花の香りがしたから」

「……なるほど?」


なんとなく俺の脳裏に「他の女の匂いがする……」というヤンデレじみたセリフが浮かぶが、慌てて振り払う。


「……別にいいけど」


澄火はそういうと、一歩こちらに距離を詰めてくる。もともとそんなに距離がなかったので、完全に密着するような格好になる。


「……そんなことしなくても、俺は澄火の相棒だぞ?」

「ん……」


澄火は納得したような気配はあるが、離れようとはしなかった。


「帰ったらどうする?」

「……ん。新しいピースを見つけるか……それか、ダンジョンに潜ってお金を稼ぐか」


そう言えば、澄火の目標は金を稼ぐこと……なんだっけか。

今回の一件で、またもや大金が転がり込んできているし(エルヴィーラ王女曰く、口止め料兼迷惑料)、もう一生遊んで暮らしても問題ないくらいのお金は持っている。


「……何を買いたいんだ?」

「…………内緒」


澄火は手でバッテンを作る。

以前見たのは、家に帰りたくない理由を聞いた時だったか。


澄火も何か重いものを抱えていそうだが……無理やり暴くようなことはしたくない。


共に過ごしていればいずれわかるだろうし……それに、世の中には他人に解決されたくない類の問題もある。


「ふわ……」

「……眠そうだね。私の膝、使う?」


俺が生あくびしていると、澄火がぽんぽんと自分の太ももをたたく。

膝枕してあげるよということらしい。


「……いや、飛行機で寝るから大丈夫だ」


もちろん復路もファーストクラスを取ってもらってる。

流石にエルヴィーラの屋敷ほどとまではいかないが、かなり快適に寝られるだろう。


「……むう」


そんな不満そうな顔をしなくても……


「またの機会にな」


俺がそういうと、澄火はほっぺたを膨らませつつ頷いた。


そんな会話を交わしつつ、俺たちは日本への帰路に着くのであった。

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