第10話 離陸
バスはヘリコプターから少し離れた場所に停止した。
ヘリコプターはいわゆるタンデムローター式––––前後に二つ大きな回転翼がついているヘリコプターで、見るからに明らかに通常のものとは違う、軍用のものだった。
ヘリのそばには、メイド服を着た女性が一人立っている。ヘリが起こす強い風を受けているはずなのに、全く意に介す様子はない。
何が仕込まれているのか、スカートは風を受けても全く捲れ上がる様子はない。
明らかに、俺たちと同種の人間––––ダンジョン適性を持つ人間だ。
「ようこそお越しくださいました」
バスから降りると、メイドさんは日本語でそう言って美しいカーテシーを決める。
「私はヴァイオレットと申します」
「若槻翔です」
「……星野澄火です」
「ええ。存じております……我が主も首を長くして待っております。ヘリへご搭乗くださいまし」
そういうと、メイド服の女性は一歩脇へ避ける。
俺はその導きに従い、ヘリへと乗り込む。
ヘリコプターの内部には、席が六つ用意されていた。
コックピッド側に一つ、その反対側に一つ。
そして、その間に二人がけの席が二つ。
それぞれがヘリの中央を向くように配置されている。
俺は澄火とともにある席の一つに座り、事前に開けられていた収納に刀以外の荷物をしまう。
俺たちの後にヴァイオレットと、そして黒服のうち1人が乗り込んでくる。
どうやら、もう一人の黒服はコックピッドへ向かったようだ。
そして、メイドさんがポチッとドアの横のボタンを押した。すっと軍用ヘリの扉が閉まる。
同時に窓にシャッターが降ろされる。詳細な行き先を俺たちに知らせないためだろう。
なんとなく、携帯とかも妨害電波で無効化されていそうだ。
「離陸しますよ」
ヴァイオレットがそういうと同時に、俺の体にかかる重力が増大する。
窓が閉まっているので詳しくはわからないが、おそらくヘリが離陸し上昇していると思われる。
「到着までしばらくかかりますので……少し親睦を深めましょうか」
そういうと、ヴァイオレットはすっとヘリの一部からシートを引き出す。そして、片側の端点をカチリと引き出した方と反対側の壁へと繋ぐ。
するとあら不思議。テーブルの完成である。おそらく、ヘリ内部で作戦会議なんかができるようにこのような仕組みがあるのだろう。
「麻雀はご存知ですか?」
「……ルールくらいは」
一応、役の組み合わせくらいなら知っている。
「ならいいでしょう」
そういうとヴァイオレットは収納の一つから折りたたみ式の麻雀セットを取り出す。
そして、突然の麻雀対決がスタートした。
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