第8話 アラスカへ

あれから三日。


俺たちは何かしようという気が起きず、ダラダラと過ごしていた。

ダンジョン災害の経験で少し精神が荒んでいたので、休息を取るという面ではちょうどいいのだが(アラスカに行ったのは、災害の翌日だ)……なんというか、このままではいけない気もする。


ブーッブーッブーッブーッブーッブーッ……


そんなダラダラした空気を、アラームが切り裂いた。


「……ん。若くん、でんわ……」


と、澄火が俺の頭を撫でて優しく起こしてくる。

眠たい目を開けてなんとか澄火から携帯をもらい、耳に押し当てる。


「はい……」

「眠そうだね。もう12時だよ?」

「ちょっと時差ぼけがありまして……」


電話口には、予想通りというべきか熊川さんが現れた。以前も言った通り、俺の電話帳には熊川さんと澄火、そして家族の連絡先しかない。


「どうされました?」


俺はむくりと起き上がる

すると、澄火が膝の上に頭をぽすんと乗せ、こちらを見上げるような格好になった。


「ついこの前だっけ?盗まれた靴のありかが判明したわよ」

「本当ですか!?」

「……うにゃっ」


思わず少し腰を浮かせてしまい、頭を揺さぶられた澄火が不快そうな声を発する。

澄火の頭を撫でて宥めつつ、俺は詳細を聞くべくじっと熊川さんの声に耳を澄ます。


「うん。……詳細は電話口で言うのもなんだし……ね。とりあえず、メールで送る場所に行きなさい。そうすれば、色々とわかるわ」

「……色々?」


俺はアム・レアーを操り、サイドテーブルに置いてあるタブレットを持ってきてメールを開く。



From:Mana Kumakawa

To:若槻 翔

件名:例の件

前略

行く住所は、先方からの要望により秘匿させてもらうわ。とりあえず、この航空チケットを使ってヒースロー国際空港まで行きなさい。そこからはヘリで先方が送ってくれるわ。空港に着いたら、先方が見つけてくれるから大丈夫!

草々



「ええ、いろいろね。黒子ビハインドザシーンの組川ハルについても調べがついたわ。どうも、窃盗を専門にしている構成員らしいわね。戦闘能力にはかけるけど、隠密や逃走に長けているタイプ」

「なるほど……」


ずっと隠密を保ったまま俺たちのそばにいたと考えられるので、相当な実力者なことは間違いないだろう。


「……黒子ビハインドザシーンを動かした人間がいるということもあるから、くれぐれも気をつけてね。またね」


お礼を言う暇もなく、電話が切れた。相変わらず忙しそうだ。

仕方ないので、返信メールで感謝を伝えておこう。

俺はメールの返信を書きつつ、添付されている飛行機のチケットを確かめる。今日の16:00発……すぐに出発した方が良さそうだ。


「……ん。行こ」


澄火は何も聞かずに俺の膝から頭を上げて準備を始めた。

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