第6話 黒子

「…………」


目の前で起こった出来事の衝撃に、俺は一瞬フリーズしてから慌てて我に帰り部屋の外へと追いかける。


「まてごらあ!」


俺の口から普段は出ないような言葉が出る。


部屋の外へと飛び出すと、しゅんとどこかへと転送された。

どうやら、この部屋の設定でそうなっているようだ。


転送された先ですでに豆粒の如き大きさになっている黒服の男を俺は「加速装置」を起動して追いかける。

しかし黒服の男は意外と俊敏な動きでひょいひょいと俺から逃走を続ける。


「ちっ」


俺は舌打ちを一つして、刀に手をかける。


加速装置・制限解除インフィニットアクセル


「能力強奪」によって強化されているステータスの出力をマックスまで引き上げ、黒服の背中に向けて抜刀術を繰り出す。

しかし、ぱしゃりと黒服の男は液体になって消えてしまう。


勘に従って振り向くと、黒服の男は逆方向へと逃走を開始していた。

と、纏雷を発動させている澄火が虚空より現れ、黒服に急襲をかける。


黒服は懐から棒のようなものを出すと、かちりとスイッチを入れる。


「っぐ!?」


急に俺の体に負荷がかかり、加速状態が切れてしまった。

どうやら黒服も状況は同じなようで、黒服の加速状態も切れてしまっている。


どうやら、指輪のように、周囲のステータス能力を制限するもののようだ。


……とはいえ。


俺はステータス能力を無理やり引き上げ、澄火は自身の体を雷に変化させ、俺たちはそれぞれ黒服の男に追い縋る。


そもそも俺はステータス能力がかなり大きく、澄火もスキルの使用まで制限されているわけではない。

このままでも追撃をかけることは容易だ。


「お前は何者だ!」

「……黒子ビハインドザシーン、一般偵察員組川ハル」


まさか答えが返ってくるとは思わなかったが、ともかく黒服の男の情報を得ることができた。

もちろん、100%正しいとは限らないが。


黒子ビハインドザシーン


熊川さんの話では、探索者を多数抱える国際的な探索者の犯罪集団であり、犯罪の考案や実行をビジネスとしてやっている団体という話だった。

内部には鉄の規律があるという話もあったし、構成員が勝手に犯罪をすることはないだろう。

もし黒服が「黒子ビハインドザシーン」なのだとしたら、誰かから頼まれて強奪を仕掛けた……と見て良さそうだ。


……一体誰が?


北海道のダンジョン災害で結構派手に使ったような気もするし、自衛隊員の誰かが情報を流したのか?

そもそも、これを欲しがる目的はなんだ?


疑問は尽きないが、今はとりあえずあやつをとっ捕まえることにする。

犯罪組織の一員だし、多分逮捕できるだろう。


「はああ!」


地面を強く蹴って加速し、俺は黒服に迫った。

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