第4話 ぐるぐる

モンスターも出てくることがなく、トラップもなく、さらにいえばトラブルもなく、俺たちは順調に先へ先へとひたすら進む。


そのまま三時間ほど経って、俺たちはようやく何かがおかしいと気づいた。


「澄火……」

「……ん?」

「さっきから、ずっと同じところをぐるぐるしてないか?」


俺は羅針盤を取り出す。相変わらず遥か下方をさし示しているためわかりにくいが、先ほどから同じような動きを繰り返している気がする。


「……ん。まさに、迷宮ダンジョンって感じ?」

「そんな感じだな」


俺は首肯する。

どうも、この階層にも何かギミックが隠されているようだ。


「……そうはいっても、ずっと一本道なような気もするんだよな」


特に道に分岐はなかった覚えがある。

試しに俺はもう一度ぐるりと一周(俺の主観ではただ直線上に移動しているだけだが、便宜上『一周』と言っておく)してみる。


やはり、特に分岐とかはない。というか、俺たちがきた扉もない。


あれ?これまずいのでは?


「……ん。大丈夫。謎は解けた」


と、澄火。


「かつて、地球は平面だと信じられていた」


……何の話だ?


唐突に何やら語り出した澄火。

俺の脳裏に大量のハテナマークが浮かぶ。


「中世ヨーロッパで地球は球体であることが明らかになり、人の意識が変わった。その瞬間、地球は平面から球体になった」

「……?」


さっぱり話が見えてこない。


「つまり、こういうこと」


澄火は紫電をぱあっと伸ばす。すると、何もないところで紫電が跳ね返ってきた。


「なぬ?」


しゅん。


そんな音がして、周りの景色が変化する。

先程まで通路にいたはずなのに、小さな部屋だ。

床を見ると、何やらベルトコンベヤーのようなものがある。


……ランニングマシンみたいに、ずっと歩かされていたということか。


そりゃ進まないわけだ。


おそらく、ギミックがあることに気づき、何か飛び道具を撃つとギミックが暴けるという仕組みなのだろう。


「澄火、さすがだな」

「……ん」


澄火は照れているのか、微妙に視線を逸らした。


と、がくんと部屋全体が動き出す。

羅針盤の動きを見る限り、下へ下へと向かっているようだ。


俺は羅針盤をリュックに放り込み、左腰に差した刀の鯉口を切っていつでも抜ける状態にする。


5分ほど経ち、部屋はようやく停止した。

そのまま、ぱたんぱたんと四方全ての壁が向こう側へ倒れる。


そして……俺たちの目の前には、羅針盤と似通った思想を感じさせる幾何学的な模様が刻まれた、見覚えのある扉が現れた。

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