第4話 忘剣
「おうおう、まだ戦線が崩壊していないと思ったら、探索者様が戦ってらっしゃったのか」
「……!」
俺は後ろから急に話しかけられた。
澄火はこちらに対応を任せるとばかりに洞窟の前へと進む。
振り返ると、暗い雰囲気の中年の男がそこには立っていた。不釣り合いな程に大きな剣を背中に背負っている。
「……誰だ?」
「『解放者』ってぇ知ってるかい?」
「解放者?」
…………はて?
特に聞き覚えがないワードだ。
「ふむ。新人なのかな?すごいね。それでこの量の魔物を制圧できるんだ」
すごいねと言っている割に、全く賞賛が伝わってこない。
まるで感情が抜け落ちたかのような、平坦な声だ。
「悪いけど、排除させてもらうよ。せっかく名だたる探索者がいないこのチャンスをみすみす逃すわけにはいかないんでね」
名だたる探索者がいない……?
俺はその情報に一瞬気を取られたが、瞬時に思考を切り変えて二刀を構える。
「『解放者』一般戦闘員、コードネーム『忘剣』……一応、名乗るのが決まりなのでね。……行くよ」
ふっと『忘剣』の姿が掻き消える。
––––加速装置!
俺はステータスの出力を上昇させる。
全てがスローモーションになった世界。その世界で、忘剣はこちらに斬りかかってきた。
––––速い!
俺は左の刀でそれを受け止めて、刃を滑らせるようにして受け流す。
「はあ!」
「甘いよ」
忘剣は俺の斬撃を大剣の握りの部分で受け止める。
俺の刀は、ダンジョン災害の終わり際にドロップしたことから分かる通りかなりの名刀だ。
熊川さん曰く、本来はあの赤鬼程度のモンスターが持っている代物ではないらしい。
そんな刀の斬撃を握りの部分で受け止めるということは……どうやら、忘剣の持っている大剣も俺の二刀に負けず劣らずの一品のようだ。
「この速さについて来れるんだ。すごいね」
そう言って、忘剣の姿が「加速装置」状態の俺の視界からふっと消える。
「……な!?」
こんなことは、今までなかった。俺は反射的に、自分も同じ早さで動くべく、ステータスの出力をさらに上げるイメージをする。
考えてみれば、俺の今の最高スピードは戦闘を経て上がっているはずだ。おそらく、無意識に忘剣のスピードに合わせた出力にしていたのだろう。
ステータスの出力を上げ続けると、忘剣の姿が再び見えるようになった。
すでに目の前まで来ていた忘剣の斬撃を受け止め、手数で圧倒すべく連撃技を繰り出す。
「ふむ。確かにステータスは高いようだけど……君の戦いかたはなってないね」
「そりゃ、5日前までただの高校生だったもので」
俺はヒョイっと斬撃を回避して、一瞬ステータスをマックスまであげる。
忘剣さえも静止した世界で背後をとり、片方の刀による抜刀術を繰り出した。
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