第10話 玉
先ほど手形の中央に書かれていたのと同じような記号が後から後から壁面に表示されては流れて消えていく。
1分ほど待っていると、不意にぱっと文字群が消失する。そして……
……起動に足るMPを確認。
……装備者登録:若槻翔
……起動しますか?
……「はい」「いいえ」
そんな文字列が、今度は日本語でディスプレイの上部に表示される。
俺は一旦手を離し、「はい」をクリックする。
「うぐっ」
その瞬間、凄まじい負荷が俺の体にかかった。澄火の手前、なんとか膝をつくのを堪えるが、かなりキツイ。
俺は思わず閉じてしまった目を無理やり開き、周囲の状況を確かめる。
無数のリングが俺の周りを取り囲み、俺からエネルギーを吸い取っているのが見えた。
よく見ると、何やら俺の体を解析しているような気もする。
「若くん」
「大丈夫だ」
俺は澄火にそう答えて、この辛い時間が終わるのを待つ。
どれくらいの時間が経ったのか、ふっと負荷が消え去った。
「だいじょぶ?」
「ああ。なんとかな」
俺はディスプレイに視線を戻す。
……エネルギー充填完了。
……装備者:若槻翔、解析完了。
……プロジェクト:####を起動しますか?
……「はい」「いいえ」
プロジェクト:####は読めなかった。
どうも、固有名詞なので翻訳されなかったようだ。
俺はMPの回復を待って(恐ろしいことに、空っぽになっていた。どうも、回復する端から吸われていったっぽい)、「はい」をタップする。
……承認。
……プロジェクト:####を起動します。
ふっとディスプレイが消失する。
そして、俺の周囲にふよふよと浮かぶメカニカルな球体が四つ出現した。
「……これだけ?」
俺は思わずそう呟いてしまう。
こんなもったいぶった演出の末、手に入ったのがこの玉……
ちょっと……というか、かなり割に合わないように感じる。
「ん。若くん」
と、澄火がくいくいと俺の袖を引いてディスプレイを指差す。
……プロジェクト:####の他のピースの未起動を確認。
……※※※※を返却します
すいっと空中に俺が扉に嵌めた羅針盤が現れる。どうやら、これの名称が“※※※※”らしい。
他のピースが未起動……ということは、このボールのようなものの他にもいくつかある、ということか。
もしかしたら、それがないとこの玉はただのボールなのかもしれない。
俺は次の施設へと通じるであろう羅針盤を受け取ってリュックへ入れる。
……全任務の達成を確認。
……施設の抹消を開始します。
……内部にいる人員の強制転送を実行。
……5......4......3......2......1......
「やばっ」
「うにゃっ」
俺は慌てて澄火を抱きしめる。
その瞬間、ふっと周りの景色が入れ替わった。
俺は転送が終わったと判断して、澄火をホールドしていた手を放す。
そして、周りの様子を確かめる。
近未来的なそれではなく、ダンジョンの一階層にあったような殺風景な洞窟のそれだ。
そして、手に入れたボールはふよふよと俺の周りを漂っていた。
どうやら、これも一緒に転送してきたようだ。
「……んー」
と、澄火が背中から抱きついてきた。
たまたまリュックを手に持っていたため、ダイレクトに澄火の感触が背中を覆う。
「どうしたんだ?」
「……ちょっと休憩」
「…………そうか」
よく分からないが、俺はそのままにしておくことにした。
さて。まずは、このボールの検証から始めることにしよう。
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札幌ダンジョンの奥深く。
誰もいなくなった部屋で、端末に異世界の文字が表示されていた。
……私たちの過ちを繰り返さないで。
……$$$$に気をつけて。
……あなたの世界に祈りを。祝福を。
端末はすぐに熱線に焼かれ、表示されていた文字は誰にも見られることなく消え去った。
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