第9話 手形
レーザーをたどり、ダンジョンの奥へと歩く。
モンスターは先ほどから一体たりとも出てきていない。
念の為、このダンジョンについての情報を日本ダンジョン探索者協会のダンジョンデータベースで確認してみる。
しかし、階層を跨ぐ落とし穴はおろか、このダンジョンには普通の落とし穴があるという情報さえなかった。
以前潜った探索者はかなりの腕ききだったらしく、高階層まで詳細な情報があるのだが……残念ながら、今の俺たちには役には立たないようだ。
澄火は先ほどから紫電でできた玉を浮かべて周囲を警戒している。
どういう原理かはわからないが、あの玉で周囲を感知することができるらしい。
「あれ、かな?」
と、澄火がレーザーの終着点と見られる場所を指差した。
表面に、羅針盤と似通った思想を感じさせる幾何学的な模様が刻まれた扉。
警戒しつつ近づくと、レーザーがすうっと消えて、呼応するように扉の線が青色に発光し始めた。
そして、とくん、とくんと心臓が鼓動するようなペースで、中央にある窪みが点滅を始める。
「嵌めてみるか?」
「……ん。やってみて」
俺は羅針盤の蓋をかぱりと閉じて、中央の窪みに嵌め込む。ちょうど、羅針盤と窪みが同じ大きさだったので、すっぽりとはまった。
ぶうん、という音が響き、扉の線が緑色に光る。そして、扉がぷしゅーっと左右に開いた。
「あ、羅針盤……」
羅針盤も持ってかれてしまった。
もしかしたら他のこういった施設にも誘導してくれる可能性があっただけに、結構痛い。
まあいい。
ひょっとしたら、後で返してくれるかもしれないし……それに、そうでなくとも、この施設を手掛かりにして、また見つけることだって出来るだろう。
俺は気を取り直して、澄火と扉の奥へと進む。
部屋の中央には、俺の腰ぐらいの高さに固定された一枚のディスプレイ端末が鎮座していた。
表面には、なぜか指が六本ある手形が表示されている。見たことのない言語の単語がその中央に書かれているが、理解不能だった。
部屋のなかには、そのほかには特に何もない。
ディスプレイの前に立ち、俺は澄火をチラリと見る。
「……やっていいか?」
「……ん」
澄火は頷くと、ぽんぽんと俺の背中を押す。
いってこいということだろう。
俺は澄火に謝意を伝えてから一歩踏み出し、ディスプレイ端末の前に立つ。
一つ深呼吸をして、ディスプレイ端末の上の手形に合わせて手のひらを置く。
ぶうん。
今日何度目かのそんな音が聞こえたかと思うと、部屋の壁面に滝のように文字が流れ始めた。
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