第8話 落とし穴
適宜“加速装置”(さっきの、ステータスをフルに活かした戦い方のことだ)を使いつつ、俺たちはなんとか溢れ出るモンスター軍を殲滅することに成功した。
俺は納刀して澄火の方に振り返る。
澄火は俺の視線にビクッと体を震わせると、明後日の方向を向く。
「……どうしたんだ?」
「……おこってない?」
「…………?」
なんのことだろうか。
俺は一瞬考えてから、そういえば澄火がボタンを押したんだったと思い出した。
「何か言うことは?」
「……ん。またやるけどその時はよろしく」
「…………」
まあいいか。
なんか、いうだけ無駄な気がする。
と、そんな戦闘後の和やかな会話を交わした直後。
いきなり、床が消失した。
「……は?」
当然の如く、支えを失った俺たちは重力に従って落下するしかない。
俺は慌てて体勢を立て直して下を見る。
とりあえず、はるか下方に見える落下予測地点はただの床のようで、落ちただけで死ぬことはなさそうだ。
「澄火!」
「ん」
澄火は俺の言葉をどう捉えたのか、こちらに手を伸ばしてくる。
距離はだいたい5mほど。ちょっと届きずらい距離だ。
と、俺の頭にふと荒唐無稽なアイデアが浮かぶ。
––––いや、しかし。行けるか?
俺は両手両足を使い、澄火の下方へと自分の体を打ち出す。そして両手両足を広げて、澄火を受け止める体制になる。
すると、澄火が垂直に突っ込んできたので、俺は受け止めた。
「大丈夫か?」
「ん」
俺はものすごい勢いで落ちているにも関わらず、全く近づく気配のない地面を眺める。
20秒ほどでようやく地面が迫ってきて、俺たちは着地した。
のべ60秒近くも落下し続けていた計算になる。一体どれだけの距離を落下したのか……ちょっと考えたくもない。
上を見上げても、もうすでに天井がそこにあった。落とし穴を逆にたどって……というのは無理そうだ。
「……若くん、羅針盤はどこを指し示してる?」
「どうだろうな」
俺はリュックから羅針盤を取り出して、蓋をぱかっと開く。
ちゃきっという音がして羅針盤上部ボタンの部分が開いたかと思うと、そこからレーザーが飛び出してくる。
レーザーはくん、と曲がると、そのままダンジョンの奥へと導くように伸びていく。
羅針盤の針も大体レーザーが伸びているのと同じ方向を指し示していた。
「こっちへ行けってことか?」
「……ん」
澄火はこくりとうなずく。
「……よし。行くか」
俺たちはダンジョンの奥、羅針盤が導く方向へと歩き出した。
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