第15話 ピンセット

第13階層は、予想通りというべきか、コロッセウムだった。


がしゃんと階段へと続く道が閉鎖される。


「ぐおおおおおおおお!」


そして、アメーバのような、大きな不定形の緑色の化物がコロッセウムの中心でほえたてる。


「紫電」


澄火が強めに電撃をかますが、少し皮膚の表面に焦げ目をつけただけで終わる。


「む」

「回避!」


俺は緑色の化物の突進攻撃を回避する。

見た目に反して、かなり俊敏だ。


俺は二刀を引き抜き、切り付ける。

一応、体を分離させることには成功したものの、すぐにひっついてしまった。


こういうモンスターには核がある……というのがテンプレだが、奴の半透明な体を覗く限り、核なんてなさそうだ。


「どうしたものか……」


俺は澄火をチラリと見る。澄火は俺の視線に気づくと、サムズアップしてひょいっとコロッセウムの端の方に引っ込んだ。


そのまま、力を貯め始める。


「…………」


俺は作戦を理解し、アメーバに向けて二刀を向ける。そして突進し切りつけて離脱、そしてまた突進して離脱……という攻撃を仕掛けまくる。


アメーバはいらだったようにこちらへ攻撃してくる。そこまで知能は高くないようだ。

10分ほどそうして攻撃を避け続けていると、「若くん!」と俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


俺は瞬時に澄火の方へと飛ぶ。


「Lightning:vertigo!」


澄火の号令に合わせ、巨大な紫電がコロッセウムを埋め尽くす。

俺はなんとか技の発動前に目と耳を抑えたが……しかし、残念ながら足りなかった。

俺の視界が真っ白に染まり、そしてキーンという音が鳴り止まなくなる。


がくがくと澄火がゆすってくるが、何も聞こえない。

と、誰かが俺の口に瓶の口を押し当ててくる。こくこくと中身の液体を飲み干すと、数秒してすぐに俺の視覚と聴覚が正常に戻った。


「だいじょうぶ?」


と、空になった瓶をもつ澄火。


「なんとか……魔物は?」


俺はコロッセウムの中心の方にいるはずの魔物を見る。


魔物は消し炭に変わっていて、煙さえ上がっていなかった。


恐ろしい威力だ。

一体どれだけのエネルギーが打ち出されたのか、想像もつかない。


「……ん。今日はこれで帰る?」

「ああ。もうかれこれ飲まず食わずで10時間は潜ってるからな」


割と丁寧に探索を進めてきたのも相まって、結構な時間が経過している。


「欲しいものは手に入らなかったけど、十分だろ」

「そだね」


澄火は俺の袖をぐいぐいと引っ張りながら魔物の方へ行く。


魔物が落品へと変化した。

今回は、魔石と……なんだろう、ピンセット?のようだ。時価は……い、いっせんまん!?


……どうやら、現代科学では再現不可能なほどに精密なピンセットらしく、あちこちの研究所から引っ張りだこらしい。


こんなピンセットはそうそう手に入らないと思うし、一本ぐらいは持っておくことにしよう。

ちょうど、羅針盤を修理するのにも使えそうだ。


俺は最後にステータスを出す。



レベル59

HP 1325/1325

MP 2575/2575

SP 0

筋力 1067

魔力 1057

敏捷 1056

耐久 1034

器用 1011



全ステータスが1000を突破した。11階層での無茶な戦闘が効いたようだ。

反面、レベルはあまり上がってない。ステータスの上昇は主にユニークスキルによるもののようだ。


「さ、帰るか」


俺はステータスを閉じて澄火に声をかける。

澄火もコクリとうなずく。俺たちは地上へと歩きはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る