第13話 宝箱
「酷い目にあった……」
「……ん。宝箱もドロップアイテムもたくさん」
澄火はしれっとした顔で辺り一面に散らばるドロップアイテムを回収する。
大量の魔石、武器、そして毛皮や爪。まあ大体そんな感じのラインナップだ。
「す・み・か?」
俺はそんな澄火の肩をガシッと掴む。
「なあに、若くん?」
「さっきみたいなことは、やめようね?」
「……結果おーらい」
そんな言い訳をする澄火。
しかし、流石に言い訳になってないと気づいているのか、目が泳ぎまくっている。
「オーライじゃなかったら死んでるから」
「……ん。ごめんなさい」
「……よし」
澄火が謝ったので、俺は肩を解放した。
「じゃあ、宝箱を開けて行きますか」
俺は手近な宝箱の一つに近づき、ぱかりと開ける。中に入っていたのは……赤い液体が入った、一つの透明な小瓶だった。
宝箱の大きさに反して随分と中身は小さいが、当然の如く値打ちものである。
「なに?これ」
「ポーションだな」
ポーション。どんな病も傷も治すことができる、魔法の薬である。
とは言え、死者を生き返らせたり、生死に関わるレベルの重い怪我は治したり、寿命を伸ばしたりといったことはできない。
それでも大抵の傷や病気は治せるので、ダンジョンから産出するものの中でも重要度が高い物品だ。
国が集中して管理する物品であり、医療現場では一切使われることはなく、ほぼ全てが研究に回されている。
災害などの特段の事情があったときだけ、政府が特例として使用を許可することになっている。
そのせいで時々、芸能人が事故にあり重体に……という時に、世論が使えと言っているのに国は動かないみたいなことが発生する。
それが原因で時の政権の支持率が落ちるのを見て、俺は民主主義ってこんなものかと子供心に思ったものだ。
それはともかく。
「だいたい、これ一つで10000円はするな」
「10000……」
少し不満そうな澄火。
俺も不満だが、政府が需要を絞っているおかげで供給過多なのだろう。
逆に需要が絞られていなかったら大変なことになっていると思うので、仕方がない。
「一応、自衛隊に預けてダンジョンに潜るときに使うこともできるらしいから、そうするか」
「……ん」
各ダンジョン周囲の自衛隊基地にはポーションが100個単位で貯蔵されている。もちろん、スタンピードに備えてのことだ。
一つの自衛隊基地でポーションを預けると、同種のそれが他の自衛隊基地でもらうことができる。
そんな、ポーション銀行みたいなシステムがあるのだ。
俺は次から次へと宝箱を開けていく。
ポーション、ポーション、ポーション、矢尻、羅針盤、ポーション、ポーション、ポーション……
ひたすらポーションが多い。
羅針盤は、現代の安っぽいコンパスではなく、昔使われていたような装飾がたくさん施されたやつだった。
あちこちが汚れていて、なんなら羅針盤の針が何かで詰まっているのか動く気配がない。
ダンジョン協会のデータベースで調べても出てこない。あとで詳しく調べる必要があるだろう。
「あっ」
「どうした?」
「これ」
澄火が取り出したのは、剣帯。
結構装飾も凝ってあるやつだ。少し古びた感じだが、かえって味が出ていてとても良い。
俺は受け取って早速つけてみる。
「どうだ?」
「ん。いい感じ」
澄火はサムズアップしてくれる。
俺はちょっと嬉しくなり、先ほどの澄火のやらかしは水に流すことにした。
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