第9話 大罪

「いったい何だったんだ?」

「……ん」


澄火は険しい表情であたりを見回す。

美少年も、美少年が殺した自衛隊員も、影も形もない。


俺は刀を袋に収納し、代わりに携帯電話をポケットから取り出してぴっぽっぱっと先ほどとは違う番号にコールする。


「どうしたの、若槻くん?」


1コールもしないうちに電話を取る熊川さん。

ラインだけではなく、電話をとるのも速いのか……さすがだ。


「実は……」


俺はかくかくしかじかと事情を説明する。

すると、あっさりと美少年の正体が判明した。


「多分君が目撃したのは、「大罪」と呼ばれる組織の幹部だね」

「……大罪?」


そんな厨二病のような名前の組織があるのか。


「一応機密情報だけど……遭遇しちゃったならいっか。どうやらユニークスキルの中には、大罪の名を冠するスキルがあるらしいのよね」

「大罪……」


傲慢 、嫉妬 、憤怒、強欲、怠惰、暴食、色欲……というやつか?


「大体それで合ってるよ。確認されている幹部は、暴食、憤怒、色欲……かな」

「今回のやつはどれなんです?」

「暴食……かな。実際のところはわからないけどね」

「どんな活動をしてるんです?」

「不明。手がかりすらも発見できてない……という状況ね」


うーむ……


要するに、何もわからないということか。


「後始末は私に任せて、とっととダンジョンに入っちゃいなさい。手回しは既にしておいたから」


相変わらず仕事が異常に早い。


「ありがとうございます」

「いいってことよ。じゃね」


電話が切れた。


「もうすぐダンジョンに入れるみたいだぞ」

「……ん。楽しみ」


澄火はやる気に満ち溢れていた。

先ほど、俺たちよりはるか格上らしき強者を目撃したせいだろう。


かく言う俺も、結構燃えている。


誰かがダンジョン駐屯地から出て、こちらへやってきた。

自衛官の制服を着た、いかついお兄さんだ。


「若槻さんと星野さんですね?これより、ダンジョンの入り口へとご案内します」

「お願いします」


お兄さんは胸元からパスを取り出すと、次々とゲートを突破していく。


そして、あっという間に入り口へと辿り着いた。


色々あったが、ようやくダンジョン探索再開だ。


俺はお兄さんが去ったのを確認してから、二刀を刀袋から取り出して腰のベルトに刺す。


ちゃんとした剣帯を持ってくればよかった。


結構無理があるし、幼稚園児のごっこ遊びのような感じでひどく滑稽な感じになっている気がする。


……どこかで剣帯がドロップすることを願おう。


俺は次に、ステータスを開く。


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