第8話 デモ隊

そしてやってきたのは山梨ダンジョン。

旧山梨県庁にあるダンジョンだ。


ダンジョンが出現した際に大規模なダンジョン災害を起こし、多数の探索者、そして自衛隊と警察・消防の奮闘にも関わらず、多数の死傷者が発生した。


「……げっ」


その経歴ゆえ……かどうかは分からないが、謎のデモ隊がダンジョン前を占拠していた。


曰く。


「ダンジョンの富を分配せよ!」

「ダンジョンに入れろ!」

「ダンジョンが国家によって犯罪目的で使われている!」

「探索者の特権を許すな!」


などなど。

……なんというか、主張にまとまりがない。

文句を言うこと自体が目的になっている……そんなふうに感じる。


ダンジョンを警護する自衛隊員と警察官は苛立ったような、あるいは困ったような顔でデモ隊を押し留めている。


「若くん……」


こちらをじーっと見る澄火。

なんとかしてくれと言いたげな目をしている。


俺はぴっぽっぱっとスマホから発信を飛ばす。


「はい、こちら山梨ダンジョン駐屯地」


ちょうめんどくさそうな電話口の人。


「もしもし、先ほどご連絡した若槻です」


がたん!どたん!と電話口からものすごい音がする。ちょっと耳が痛い。


「……大丈夫ですか?」

「は、はい!今どちらにいらっしゃいますか?」


慌てて姿勢を正したのが手に取るようにわかるようだ。

おそらく、執拗な電話攻撃にあっていたのだろう。


「ダンジョンの正面から少し離れ……澄火!」

「霹靂」


それは、まさに晴天の霹靂。

天と地をつなぐ紫の電光が、龍の咆哮の如き雷鳴をあたりに轟かせた。


ショックにより、デモ隊と、そしてそれを押し留めていた自衛隊員・警察官のが気絶する。


俺は弾丸のごとき飛び出て、今まさにデモ隊に向かって機関銃の引き金を引こうとしていたものの首を掴んで締め上げる。


危うく、凄まじい惨状が展開するところだった。歴史上、デモ隊に向かって発砲する事件は幾度も起きているが、そのどれもが凄惨な結末に終わっている。


流石に、善良な一市民(探索者がこれに当てはまるかは微妙なところな気もするが)として、見逃すことはできない。


「……なぜ気絶してない?」

「ふん……あのかたに力をもらぐは!」


がくりと自衛隊員が脱力する。

死んだ……?


「……喋りすぎだよ」


俺はばっと振り向く。そこには、中性的な見た目をした、白髪の美少年が立っていた。


……明らかに、強い。


俺は急いで刀袋から刀を引き抜き、じっと構える。


「ふふふ。まさか、戦う気?」

「ああ。殺人罪で、現行犯逮捕だ」

「殺人?誰を?」

「誰って……」


俺はチラリと背後を見る。

ない。

銃の引き金を引こうとしたやつの死体がない。

それどころか、やつが引き金を引こうとした銃すらもない。


「あはは。ま、計画は失敗ということで。それじゃ」


瞬間、少年の頭をめがけてビリリリリと紫電が迸る。

しかし、まるで未来が見えていたかのように少年はひらりとかわすと、ふっといなくなった。

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