第6話 すき焼き
大量の買い物を終え、マンションに辿りついた時には帰ってきた時にはもう18時だった。
流石に食材とかを買う余裕はなかったため、これから買いに行かなければ……
「ただいま……ん?」
そんなことを考えつつ新居である25階のドアを開けると、鰹出汁の香りが俺の鼻をくすぐった。
「……ん。おかえり」
ぱたぱたと澄火が玄関までやってきて出迎えてくれる。
エプロンを着て、まるで若妻のような装いをしている澄火。
その姿はえもいわれぬ華やかさを持っていて、俺はおもわず見惚れてしまった。
「……どうしたの?」
玄関口でぼーっとしてしまった俺に、こてんと首を傾げる澄火。
俺は我を取り戻し、慌てて首を振って大量の紙袋のうち、澄火のために買った物を差し出す。
「澄火の服だ。いちおう、当面必要そうなものは揃えてある」
「……ほんと?」
澄火は目をキラキラさせながら紙袋を受け取り、ぴゅーっとリビングの方へと走っていく。
まるで誕生日プレゼントをもらった子供のような反応だ。
俺は自分の分の紙袋を自分の部屋に運んでから、リビングへと向かう。
リビングではすでに俺が買ってきた衣類が広がれらていた。
「こういうのが好みなんだ」
澄火がそういってつまみあげたのは、俺が真っ白に燃え尽きながら選んだ下着のうちの一枚。
俺は全力で視線を逸らす。
……セレクトに俺の趣味が反映されていることは否定できない。
っていうか、逆に何を基準に選べというのだ。澄火の下着姿を想像しながら選ぶのは、いかがなものかと思うし。
ちなみに今澄火がつまみあげている奴は、モロに俺の趣味が反映されたものだ。
華美な装飾のない、機能性に優れた一品。
機能性という言葉に憧れるのが高校生男子なのだ。
俺は話題を逸らすべく、先ほどから気になっていた出汁の香りについて聞くことにした。
「澄火、夜ご飯作ってくれたのか?」
「……ん。すき焼きの肉を倶利伽羅さんが引っ越し祝いに持ってきてくれたから、それ食べよ」
すき焼き……なるほど、それで出汁の香りがしたのか。
「もうあらかたできてるから、もう少し待ってて」
そういうと、澄火は妙に手慣れた仕草で手早く服を回収すると、寝室へと撤収する。
そして、パタパタと再びキッチンへ向かった。
俺もダイニングへと移動する。
ダイニングの机の上には、倶利伽羅さんが持ってきたと思わしき肉が置いてあった。
木箱に入っており、あからさまな高級感が漂っている。
「美味しそうだな……」
「ん」
俺はテーブルに座り、スマホのニュースサイトを開く。
荻窪ダンジョンの一件については、どのニュースサイトでも報じられてなかった。
「荻窪ダンジョン」で検索をかけても出てこない。
どうやら、NDKが抑え込んだようだ。
「……ん。できた」
澄火はでんとガスコンロに乗った土鍋を机に置く。
「今日は土鍋風にしてみようと思って」
「……土鍋とかガスコンロとかはどうしたんだ?」
「倶利伽羅さんがその場で売ってくれた」
なかなか商売上手だな……
「じゃ、早速食べよ」
「いただきます」
俺は早速肉を投入していく。
空腹だったこともあり、久々のすき焼きは絶品だった。
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