第3話 おやすみモード

俺は澄火と話すべく、寝室へ向かう。


「澄火〜?」

「……にゅ」


……にゅ?

どういう類の返事なのだろうか、それは。


「一緒に服とかを買いに行こうと思ったんだけど」

「…………すりーさいずは83•60•53•80……しんちょうは、151……」

「……………………?」


急に自分のサイズを明かし始める澄火。

俺はしばらくその意味を考えて……そして、はたと気づいた。


「澄火の服も買ってこいと?」

「……ん」


澄火はごろんと寝返りを打って仰向けになる。


「下着とかパジャマとかもよろしく……」


ええ……そういうの、女の子は嫌じゃないのか?

何かの記事で、女の子は裸を見られるより下着を買われる方が嫌だみたいな記事を読んだ覚えがあるような。


「本当にいいのか?」

「…………にゃー」


澄火は起き上がる気配はない。


俺は寝かしておくことにして、布団をかけてやる。

すると、くるくると澄火は布団にくるまった。


どうやらおやすみモードのようだ。


鍵を一本、この部屋のやつを取り(もう一種類の方は倉庫の鍵だ)、NDKが回収しておいてくれた財布の中に入れ、そのままリュック(これも回収してきてくれたやつだ)を背負う。


部屋を出て階段を降りていくと、ちょうど10階から出てきた女性と出会った。

長い髪を後ろに流し、ジーンズとシャツを着こなした、どこかワイルドな感じのするかっこいい女性だ。

女性は俺の姿を認識すると、挨拶をしてきた。


「お。ひょっとして、越してきた子かな?探索者だっていう……」

「は、はい……若槻翔と言います。もう一人、星野澄火って子と一緒に住んでます」


やばい。年上の女性との接し方がわからない。

俺は、なんとか怪しい敬語を使いつつ答える。


「そうかそうか。私も探索者をしていてね。自分で言うのもなんだが……そこそこ強いから、困ったら是非頼ってくれ」

「は、はい」


確かに強そうだ。


「ああ、そうそう、名前は咲良美香だ。よろしくな」


そう言って右手を差し出してくる咲良さん。

……握手なんて、するのは久しぶりだ。


俺はそっと咲良さんの手を握る。

ゴツゴツした、戦い慣れた人の手をしていた。


「君はこれから買い物かい?」

「え、ええ。二人分の服とか、色々と買い揃えないとなので」

「ほう。同居している星野ちゃん……だったか?はどうしてるんだ?」

「寝てます。疲れたようで」

「ふむ。夜の方もすごいんだな」


なんかとんでもない勘違いされていた。


「いや、俺たちはそういう関係では」

「いやいや、別に恥ずかしがる必要はないよ」


そして、その勘違いは修正不能のようだ。

俺は諦めることにした。


「ふむ。ならば、私もついていこうか?」

「いいんですか?」

「うむ。君では女性のファッションとか、必要な下着とかわからないだろ?」


その通りだ。


どうやら咲良さんは、俺たちがほとんど着の身着のまま引っ越してきたことを今までの会話から見抜いたらしい。


「では、行こうか。目的地はデパートだ」

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