第2話 Star Elements

交渉を終え、早速部屋を引き渡してもらうことになった。倶利伽羅さんがついてきてくれるらしい。


俺には気配すら察せなかったが、どうやら他に従業員がいるらしく、倶利伽羅さんはテナントを特に施錠することはなかった。

動産屋さん……秘密の多そうなお店である。


最寄駅やや離れた場所、住宅街にポツンと一つ立っているマンション。その名も、「Star Elements」。

その最上階である25階が、俺たちの新居だ。


俺たちは早速、エレベーターを使って最上階へ行く。

このマンションは特徴的で、なんとワンフロアにつき一つしか部屋がない。

結構ワンフロアの大きさも大きく、高さもあるマンションなのに、25世帯までしか入居できないのだ。

ちなみに、今は住人は一人だけ……10階に住んでいる人だけらしい。


あとで挨拶をしに行かなければ。


「さあ、どうぞ」


倶利伽羅さんが手早く鍵を開け、中に入るよう促してくる。


中にはすでにテレビやソファといった家具があらかた運び込まれていた。


契約が完了してから一時間も経っていない。仕事の早さが異常だ。


俺は澄火と早速部屋をみて回る。


普通の部屋が四つ、少し広い寝室が一つ。そして、リビングが二つ、ダイニングが一つ。


フロアの中央にリビングとダイニングがあり、その周囲に部屋が配置された間取りだ。


寝室には、なぜかキングサイズのベッドが一つ配置されていた。

俺は部屋を分けた上で、シングルベッドを二つ配置してくれるように頼んだのだが……


チラリと犯人だと思われる澄火を見ると、ぐでーっと真新しいベッドにダイブしていた。


––––まあ、いっか。


俺は澄火を寝室に放置し、バスルームやトイレをチェックしていく。

大体問題なさそう……っていうか、俺の実家にあるやつよりハイグレードっぽい。

残念ながら俺の人生経験が足りないので、どれくらいのグレードなのかはわからなかったが。


「いかがでしょうか?」

「文句なしです」


俺は振り返り、後ろで待機していた倶利伽羅さんにそういった。


「では、こちらが鍵となります」


倶利伽羅さんはジャラリと鍵の束を渡してきた。

二種類の鍵が、それぞれ三本ずつ……ってあれ?


「これが鍵?」


鍵というのは、普通ギザギザしている物だと思うが……この鍵は、もはやただの金属の棒にしか見えない。


「ええ。かなり特殊な鍵でして……普通の鍵屋ではまず複製できません。また、鍵もそれだけしかなく、マスターキーもないため、セキュリティは万全ですよ」


なかなかすごい技術が使われているようだ。

一体何者なんだ、動産屋さん……


「では、わたくしはこれにて失礼致します。良い暮らしを」


そういうと、倶利伽羅さんはふっと姿を消す。

数秒後、玄関のドアが閉まった音が聞こえた。

幻影で姿を隠し、玄関から外に出たのだろう。


……全く、すごい人だ。

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