第1話 倶利伽羅
熊川さんに送られた住所へ向かうと、「動産屋さん」という看板を出しているお店を発見した。
探索者には超がつくほどの大金を所有している人が多い。
探索者が不用意に金を使いすぎることで地域経済を破壊したり(現実に起こったことらしい)してしまえば、世間から探索者全体が反感を買うことは想像に難くない。
そのため、派手に散財する時は探索者専門のお店を使うのが不文律なんだそうだ。
そういったお店の一つが、ビルの片隅にひっそりとある、不動産会社「動産屋さん」。
俺たちは、階段を伝って上の階まで行き、テナントのドアをノックする。
「いらっしゃいませ。若槻様と、星野様ですね?今回は当店へようこそお越しくださいました。応接室へご案内いたします。さ、どうぞ」
出迎えたのは、どこか胡散臭い感じのする、長身のスーツ姿の男。街で営業をかけられたら100%詐欺を疑う感じの男だ。
俺は警戒しつつ、男についていく。
すると、小汚いビルの見た目に反して、かなり作り込んである部屋へと通された。
成金趣味になりすぎないように程よく調度品が調整されていることが、全く芸術を知らない俺にもわかる。
俺は勧められるままに席に座り、出された紅茶を飲む。この紅茶も、一緒に出されたお菓子も絶品だった。
「申し遅れました、私、
く、くりから?
ともすれば偽名と間違われそうなくらいに、珍しい名前だ。
「今回不動産のご紹介ということで」
「はい。予算は四億円ほど、マンションの高層階が希望です」
「ええ。おすすめの物件が幾つかございますので、順々に見ていきましょうか」
そういうと、倶利伽羅さんはパチリと指を鳴らす。
すると、周囲の景色がおしゃれな応接室から、マンションの一室へと変化した。
俺は慌てて指輪を引き抜き、本来のステータスを取り戻す。
「予告もなしに申し訳ありませんでした。罠ではありませんので、制限装置をつけていただいて結構ですよ」
俺は周囲の安全を確認してから、再び指輪をつける。
「ワープ……?いや、幻影?」
と、澄火。
「ええ、正解です。これは、紹介する物件の様子ですね」
俺は周囲を見渡す。
なかなかに広い部屋だ。周りに高い建物がないからか、景色もなかなかにいい。
「他の部屋は、どんな感じですか?」
「ふむ。では、順々に見せて行きましょう」
倶利伽羅さんは指をくるくると回す。
ダイニング、バスルーム、トイレ、キッチンとどれもなかなかの大きさだ。
そして、部屋の数が多い。普通の部屋が5つ、リビングが二つ、ダイニングが一つ……7LDKというやつだろうか。
そしてなんと、地下には、厳重な警備で守られた倉庫がついている。
ダンジョンのドロップアイテムとかを保管したりするのに便利そうだ。
「どうです?こちら、本来は4.5億といったところですが……熊川さんのご紹介ですし、将来有望とのことですので……3.5億円でいかがでしょうか」
「……一応、他のやつも見せてもらっても?」
「もちろんです」
その後もいくつか見せてもらい、俺たちは結局最初のやつを選んだ。
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