第15話 小切手

「それで、今回の件だが……ダンジョンが厳重に外界と遮断されているのは知っているな?」

「ええ、まあ」


警察・自衛隊による厳重な警備によって人・モノの流通は遮断され、隔壁によって物理的にも遮断されている。

一応、探索者による配信という情報的な流れはあるものの、ごくわずかな例外だ。


「本来、それはダンジョンスタンピードを防ぐための装置ではあるのだが……まさか、入り口付近に初心者が残っているにもかかわらず隔壁を閉じるとはな……」

「それも、パニックになって……というのがね。一体何をやっているのやら」


俗にいう平和ボケというやつだろう。

今までに一度もダンジョンスタンピードが起こっていないのだから、これからも起こらないだろう……そう考えるのもわからなくもない。


危うく殺されかけたことに関しては、強い怒りを覚えるが。


「……まあ、そっちは俺たちダンジョン探索者協会が対処する。すでにスタンピードは終結している……君たちの活躍もあってな。君たちがいなければ、とても死者ゼロという結果では終わらなかっただろう」

「隔壁はありましたけど」

「そんなもの、役に立たないさ。……君も、あの集団を倒すくらいのステータスがあるのなら突破できたはずだよ?」

「……え?」


夢中で戦っていて気づかなかったが、確かに言われてみればそうかもしれない。

俺たちを制圧したあの赤鬼モンスターなら、余裕であれくらいの壁破れそうだ。


そういえば。


「あのシャドウと呼ばれていた人とか、司会の……えっと、苦川さんは破れなかったんですか?」

「シャドウくんはそもそもそんなに強くないし、彼はアサシンタイプでパワーはないからね。苦川くんに至っては……彼、強者感は醸し出しているけど全然ダンジョンの攻略経験はないよ?」

「そうなんですか……」


なんか意外だ。


「ともあれ、あの集団が外に出ていたら、それこそ何千という死者が出ていただろうな。ダンジョンの外は普通の住宅街なわけだし」


それを聞いたら壁を破るわけにはいかない。あの赤鬼だけでも、それこそ一つの町くらいは簡単に壊滅できそうだ。


「今は俺たちが魔物を殲滅して、安全な状態だ。お前らが討伐した魔物のドロップも全部回収して換金してあるぞ。それからこれ」


水川さんは二台のスマートフォンを懐から取り出した。最新モデルだ。


「残骸を発見してな。一応、SIMカードをサルベージして入れておいたぞ」

「ありがとうございます」


俺はぽちっと新たなアイフォンの電源をつける。

文明の利器との再会に、俺の胸が感動で打ち震える。


「それから、これを」

「……?」


水川さんは熊川さんに合図をおくる。

熊川さんは、二枚の紙を懐から取り出して、一枚ずつ渡してくる。


「……小切手?」


初めて見た。金額は……3億円!?


「口止め料も込みだ。今回の件を口外しないように……な」


汚い大人の世界だ。

……まあ、人知れずスタンピードが起きていたなんてことが明るみに出たらだいぶやばいことになりそうなので、仕方ない。


3億円……何に使おうか。


「一応言っとくけど、巷で派手に使ったりしないようにね。もし不動産とか美術品とかの高い買い物したければ、俺たちに連絡してくれ」

「あ、はい」


いきなり羽振りがよくなると……というやつか。





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