第14話 カツ丼

30分ほどゆったりと湯船に浸かってから、俺たちは風呂を出た。

おかれていた病院服に着替え、俺は今更ながらナースコールを押す。


3分ほどして、看護師と思われる女性が静かに入ってきた。

おっとりとした感じの女性で、ネームプレートには「高橋」と書かれている。


「こんにちは〜」

「こんにちは」

「おやおや、お風呂に入ったみたいですね〜。ここの掃除は私がやっておきますので、下でお待ちになっているお客様にお会いになってください〜」

「……お客様?」

「はいー。日本ダンジョン探索者協会の方らしいですよ?」

「……なるほど?」


なんだろう。閉じ込められたことへの釈明とかをされるのだろうか。


「では、よろしくお願いします〜。場所は23階の234号室ですので〜。覚えやすいですよね〜?」


どうやら案内とかはしてくれないようだ。

俺は澄火を連れ立って、階段を降りていく。


ちなみに、俺たちがいたVIPルームはなんと25階にあった。

多分、本来は芸能人とか政治家とか、そういう高貴な方々がいる場所だから、外から覗かれないように高い場所に作ってあるのだろう。


指定された部屋のドアをノックして中に入ると、そこには、探索者と思われる男女1組がいた。


「おう、きたか。まあ座ってくれ」

「は、はい」


なんか面接っぽくて威圧感がすごい。探索者の男の人は部屋の奥に行くと、二つの皿を持ってくる。


「カツ丼二つだ。君たちの勝利を記念して、俺の奢りだ。ちなみにこれは、福鍋亭というお店の、2万円もするカツ丼でな。店主の古川さんは昔からの味を守って営業していて……」

「はいはい、いいから。どうぞ、食べて」


何やら語り出した男の人を制止してカツ丼を取り上げて、女性は俺の前に差し出してくる。ついでにお箸とレンゲも配膳してくれた。


俺は早速、「いただきます」といって実食。

空腹もあり俺は夢中で食べ進め、あっという間に食べ終わってしまった。


「…………はっ」


ニヤニヤとこちらを見る男の人の視線に俺は気づく。

……な?うまいだろ?とでも言いたげなむかつく視線だ。


隣を見ると、はぐはぐとこちらも夢中で食べている澄火。女の人が微笑ましそうに見ていた。


「………それで、お話とは?」


俺は食べ終わるのを待って、二人にそう問いかける。


「んんっ……私は日本ダンジョン探索者協会、東京支部支部長、水上隼人だ」

「私はこの人の秘書の熊川麻奈よ」

「若槻翔です」

「星野澄火です」


俺たちはそれぞれ自己紹介して頭をぺこりと下げた。



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