第29話◆一緒に怒られてやる

「アベル、お前は今すぐ宿に帰れ」

「やだよ、グランこそ先に帰りなよ。あのおじさん達は俺の獲物なんだから」

 こいつやっぱりあのおじさん達に報復をするために、夜の街に出てきたんだな。

 昼間におじさん達を見かけた時にアベルも気付いていたからやっぱそうなるよな。

 昼間にもあのおじさん達にアベルが気付いた時に感じた――アベルの不快な表情の中に見える激しい敵意。


 アベルの鑑定は、人も鑑定できると聞いている。ということはこのおじさん達がいい人か悪い人かもわかるってことだよな。

 人には生き様を表す称号が付くらしいから、犯罪者にはだいたいそれっぽい称号が付いているとアベルから聞いた。

 俺はただの子供で悪いこともすごいこともしていないので、まだ田舎の悪ガキという称号しか付いていない。

 というか田舎とか悪ガキとか失礼な称号だな!!


「あのおじさん達は悪い人?」

 念のため確認をする。

「うん、すごく悪い人達。だからグランはもう帰って、巻き込んじゃうから」

 こいつ一人でおじさん達に報復にいこうとしているな。

 いくら強くても子供なんだから、大人の男性を複数相手にするのは危険だ。

 もしかすると魔法対策もしているかもしれない。

 アベルなんて魔法がなかったらただのクソガキじゃん。


 それに冒険者ギルドの規則で、人間との不要な戦闘行為や私刑は禁止されている。

 今のところまだ向こうから何かしてきたわけではない、ただ周りをウロウロされているだけ。

 先に手を出してしまえば、俺達の方が不利になるし、手を出される前なのでとぼけられるとどうにもならない。

 かといって、何かされてからでは遅い。

 相手は四人かな。やっぱ、子供二人なら逃げるべきである。

 なのだが、こいつは冒険者ギルドの規則なんて気にするタイプじゃなさそうだ。

 それにアベルは自分に敵意のあるものに対して、日頃から異常なまでに攻撃的だ。

 そのため頭に血が上って冷静ではないのだろう。止めたところで引かない、引いても俺と別れた後また報復にいきそうだ。

 アベルがここまで殺気にも近い敵意を剥き出しにしているということは、アベルに対して悪いおじさん達なのだろう。



「もうすでに巻き込まれてるよ。俺があのおじさん達の顔をしっかりと見たことをおじさん達も気付いてる。そしてここに俺がいるのも見られた。目撃者は始末されちゃうかも~?」

 だから付き合ってやるよ。

 一人より二人の方が時間稼ぎができるだろ?

「もう! そうじゃなくて物理的に巻き込むってことだよ!!」

 おどけてみれば、やっぱ穏やかじゃないことを考えている証拠の答えが返ってきた。

「そこは上手く躱すからさ、仕返しをするなら一緒にやるぜ。一緒にドリーさんとギルド長にも怒られてやるからさ、あのおじさん達をちょっとびっくりさせてやろう」

 静かな夜、アベルしか聞こえない声でささやく。

 今日のところは何かあったわけでもないから、今後アベルの周りをウロウロしなくなるように仕向ければいい。

 子供は無理をすることはない。

 悪い人をやっつけて裁くのは大人の仕事。


「びっくりさせる? 何か作戦でもあるの?」

「もちろん、とりあえず逃げながら人を巻き込まない場所に釣るぞ」

「え? うん、わかった」


 アベルの転移魔法で移動するか、人のいる辺りまで逃げて騒げば、おじさん達から逃げることはできる。

 だがアベルの周りをしつこくウロウロしているのなら、それでは解決にはならない。

 きっとまた日を改めてアベルや俺のところにやってくるだろう。

 そしてそれはいつになるか予測ができない。

 だったら、今ここで決着を付けた方が後々安心である。


「広場の方にいくぞ」

「わかった」

 身体強化を発動し広場の方へと駆け出すと、アベルが俺をターゲットにしてワープで追いかけてくる。

 広場は前世にあった緑地公園のような場所で、木がいくつも植えられ、更には建設中の噴水や舞台もある。これらを利用すれば上手く身を隠しつつ奇襲を狙うことができる。

 整備中のため街灯も消えており真っ暗で、夜間に人が近寄りそうにない場所。

 ちょっと鬼ごっこをするにはちょうどよい場所だ。


「ちょうどいい、二人一緒にいるぞ!」

「あっちにいったぞ、追え!」

 身体強化で上がった聴力におじさん達の声が聞こえる。

 その言葉にやはりアベルがターゲットだったのだと確信をする。俺はそれを見てしまったおまけかな。


 広場に逃げ込んだ俺達を追って来るおじさん達の気配。

 あ、やばい。おじさん達、思ったより足が速い。

 そりゃそうか、子供の俺達より背が高いもんな。しかも、いつものおじさん達と同じように何かのプロなのだろう。

 人目に付かない公園に入ると、おじさん達が身体強化を使ったような魔力の動きを感じた。

 これは思ったより時間が稼げないかも。


「アベル、今すぐあそこの大きな木の上に一人で転移しろ。そして絶対振り返るな。いいか、絶対だぞ! それで、俺がいいよって言ったら振り返って俺を空間魔法で引き寄せてくれ。できるか?」

「うん、それくらい余裕。でも、大丈夫? 危ないことはしないでよ?」

「ああ、ちょっと足止めをするだけだから、ここは俺に任せて先にいけ」

「うん、わかった。絶対ちゃんと合図してよ? 無理はしないでよ? じゃ、いくね」

 ちょっとヒーローな気分になりながらアベルに転移を促す。

 俺が指差した先に見える木の上にアベルが転移をしたの確認し、自分は収納の中から調合スキルを上げるついでに作ったポーションを取りだした。


「くらえ! 無害で明るいピッカピカポーション!!」


 ほんのりと光るポーション瓶を、振り返ることなく自分の後ろに向かって投げると背後から溢れた光が周囲を明るく照らし、俺が指示した高い木の上にいるアベルの姿も浮かび上がらせた。

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