第24話◆渚のクリームパスタ
「塩よし! カニよし! 他に何の依頼を受けたんだっけ? 人のいない海岸はやりたい放題できていいけど、何だか寂しいから次は人気の場所とか行ってみたいな」
「ええ……人気の場所って人が多いじゃん。人の多いとこだとさっきみたいに周囲を巻き込みそうなものを投げちゃうと、ギルドに通報されてペナルティになるよ。もちろん投げなくても周りに迷惑がかかるものはダメだからね」
つい先ほどライトニングナッツをばら撒いてあんなことになったばかりなのに、まったく反省した様子がなくこれである。
人の多いところは周囲を気にしないといけないから面倒くさいし、グランが何かやらかした時に誤魔化せない。
「大丈夫大丈夫、人の多いとこなら周囲にも気を使うから、さっきみたいな大雑把なことはしないよ。それに初めて来た町だから人気のスポットも行ってみたいし?」
なんてことを言いながら、倒したペルルガザミを収納に収めようとしている。
「もう! いつも言ってるでしょ? 収納スキルは悪いことにも使えるスキルだから周りをよく見て使えって。ほら、まださっきの騒ぎで集まって来た人が何人か残ってウロウロしてるから俺が回収しておくよ」
ホントしょうがない赤毛だね。俺が面倒を見てあげないとすぐやらかしちゃうし、他人に知られない方がいいスキルを無防備に使っちゃう。
悪い人に目を付けられても俺は知らないんだからね!
「やべっ、ついうっかり使ってた。でもアベルに任せてもアベルだって子供じゃん。俺より背が低くて細いから俺の方が年上に見えそうじゃん。やっぱ俺が回収した方がよくないか?」
キッ! 自分が山育ちの野生で年のわりに体格がいいからって、いい気になるんじゃないよ!
俺はこれから伸びて、君の身長なんかすぐに抜かしちゃうんだからね!!
「見た目より中身だよ! どう見ても俺の方が落ち着いてて大人! グランは行動が子供っぽいの! 大人はいきなり雷どんぐりなんて投げないよ!!」
「ええー、あれは魔法の使えない俺の遠距離範囲攻撃だよー」
その範囲と使い方が問題なんだよ!!
「もうっ! 人の多いところに行くなら絶対に変なことしないでよ。グランのとばっちりで俺まで怒られるのは嫌だからね」
「はいはーい! 良い子にしてるから、俺を信じてくれ!!」
絶対に信じたらダメなやつじゃん。
って、やっぱ信じたらダメなやつだったじゃん!!
グランが人気の場所に行ってみたいとか言うから、やって来たのは砂浜。
グランが受けたシーピッグという海に棲む豚の討伐依頼のためだ。
シーピッグは砂浜から浅瀬にかけて棲息する小型の水棲豚の魔物で、こいつ自体はDランクでも弱い部類の多少戦闘慣れしていれば苦戦することもない相手だ。
だがこいつを狙って、大型の水棲肉食獣シーレオパードやシータイガーが陸地付近まで寄って来て、海岸付近にいる人が襲われる危険性もあるため、人の生活圏に近い場所に出没するものは駆除対象である。
ついでにいうと、豚なので食材である。
そう、それがグランがこいつの討伐依頼を受けた理由だ。
ホント、グランは食材系の依頼が大好きだよね。
受けちゃったものは仕方ないから手伝ってあげるよ。
手伝ってあげるから、お礼はシーピッグ料理でいいよ。
シーピッグは小さくて強くもないので、その討伐依頼自体はすぐ終わったんだ。
グランにしては珍しく平和に手際よく、変なものを投げずに。
普通に終わって拍子抜けだと思ったら、その後がやっぱりグランだった。
「お前が魚が嫌いだとか、カニは食べにくいから嫌だとか我が儘を言うから、食べやすいメニューにしたら思ったより手間がかかるし、しかも途中から腹減った腹減ったってうるせーし」
「だって、いい匂いがし始めたら急にお腹が減ってきたんだもん。って、そうじゃない! あああああああ、人がたくさんいる海岸で何こんないい匂いをさせてるのーーーー!! めっちゃ見られてる! めっちゃ、注目の的だよ!!!」
そう、この非常識赤毛、突然海岸で料理を始め、すごくいい匂いを周囲にばら撒き始めたのだ。
ああああああああああーーーー!! めっちゃ注目の的おおおおおおおお!!
シーピッグ討伐が一段落して昼ご飯にしようかってなって、どうせならお昼は海のものがいいとグランが言い出して、俺が魚は嫌、ペルルガザミも焼いてそのまま食べるのは殻は固そうだし見た目も虫っぽいから嫌だと難色を示したら、野営セットを取り出してペルルガザミの足を一本塩茹でにして身をほぐして何かを作り始めたよ!!
一本といってもペルルガザミはでっかいから、二人で食べるには十分な大きさだ。
え? 料理で収納を使いまくりそうだから視覚阻害の魔法をかけてくれ?
そうそう、そうやってちゃんと俺に言ってくれたら視覚阻害の魔法くらいかけてあげるから、素直に俺に頼っていいよ。
って、収納から白いソース? ミルクとバターと小麦粉で作ったソース?
へー、泊まっている宿屋の厨房を借りてソースを作り貯めしているんだ。
グラタンに使っているソースか、なるほど。
その白いソースなら俺も知っているよ。まだし……家にいた頃はよく料理に使われていたのを覚えているよ。
そんな話をしながら、グランが白いソースとは別にでっかい鍋でパスタを湯がき始めた。
なるほど、ペルルガザミを使った白いソースのパスタかー。
そしてこのすごく良い香りである。
ああーーーー、王都の冒険者ギルドのロビーで見慣れた光景ーーーー!!
注目の的で恥ずかしいけれど、物欲しそうにこっちを見ている視線は優越感を覚えて癖になる。
へへーん、どうだー? 羨ましいでしょー?
でもこれから出てくる料理は俺のだよーーー!!
それで、今日のメニューは何?
「よし、できた! 即席、カニクリームパスターーーー!!」
そう言ってグランが俺の方に差し出したのは、白いソースがかかったパスタだった。
ソースとおなじ白色だからわかりにくいが、ソースの上には茹でペルルガザミのほぐし身が散らされていた。
そしてその料理からは白い湯気と白いソースの良い香りが昇っていた。
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