第18話◆俺の勝ち

「うわ!? 何!? 君、何やったの!? ていうかうるさっ! うわっ!?」

 静かな通りに響く大きな炸裂音に銀髪が驚いて、いつの間にか俺の後に銀髪ことアベルが耳を押さえながら後ずさりした。


「ちょっと大人しくしてろ!」

 癇癪玉を踏んでいたらおじさんに捕まって持ち上げられてしまった。

くそぉ、騒音玉で騒ぐ作戦もここまでか!


 そして夜の町に連続した炸裂音に、屋根や木の上や路地に隠れていた黒ずくめのお兄さん達が出てきて囲まれてしまった。

 その黒ずくめの男の一人がものすごい速さで銀髪をお姫様抱っこで抱え上げた。

「ちょっと、離して! 触らないで! 降ろして!」

 突然抱え上げられた銀髪は大きな声で騒ぎなら、抱え上げた男の上にバラバラと氷を落とした。

 だが黒ずくめはそれをあっさり躱す。

 やはりこいつらは美少年狙いの変態か! このままでは銀髪が誘拐されてしまうかもしれない!!

 そう思い大声で助けを呼ぼうとしたら、新聞のおじさんに口を塞がれた。

 

 だが派手な炸裂音や銀髪の騒ぐ声のせいで周囲の建物から人がわらわら出てき始めた。

 絶世の美少年を抱え上げる怪しい黒ずくめと可愛い子供を捕まえて口を押さえるおじさん、更に黒ずくめの男二人。


 よし、勝った!!


 ここはランクの高い冒険者達の常宿が並ぶ地区。

 そこで建物から出てくる野次馬にはその冒険者達が混ざっている。

 そして幼気な子供二人と怪しいおじさんと黒ずくめ。

 この状況、パッと見の悪者はどっちだ!!

 当然おじさん一味である。


 助けて強そうな冒険者のお兄さん達!!

 集まった野次馬に囲まれ、怪しいおじさん達の動揺がハッキリと伝わってくる。

 俺を捕まえているおじさんの手が緩くなって今なら逃げられるか思った時、野次馬を掻き分けて黒髪の大男が俺達の前に出てきた。


「アベル、これはどういう騒ぎだ!?」

「は? 俺じゃないよ! 今回は俺じゃない!! そこの赤毛と――えーと、怪しいおじさん達が悪いんだよ!!」


 あ、すみません。おたくのアベルさん、確かに日頃はすごく問題児ですが今回は無罪です!! 俺……いや、そこの怪しい人がだいたいの原因です!!

 黒ずくめにお姫様抱っこをされたアベルが俺の口を押さえている新聞のおじさんを指さした。

 おじさんが動揺して俺の口を押さえている手が緩んだ。


 よし、今だ!

 くらえ! 子供の噛みつき攻撃!!


「ぐっ!」

 口を押さえていたおじさんの手に思いっきり噛みつくと、おじさんが俺の口から手を引いたので大きな声で叫ぶ。



「このおじさん達、そこの銀髪君のストーカーです! 最近ずっと銀髪君の周りをウロウロしていました! 男の子をこそこそつけ回してる変なおじさん達です!!」


「ちょっとぉ!? 君ぃ!?」



 子供の声ってよく響くなぁ。

 俺の声が野次馬でざわめく通りに響き渡る。

 黒ずくめ達も俺を捕まえているおじさんがめっちゃ動揺したぞ!!


「ほう、怪しいおじさん達か……、確かに怪しいなぁ。少し詳しい話を聞かせてもらおうか」

 黒髪の大男が無精髭の生えた顎をさすりながらニヤリと笑って目を細めた。

 周囲には野次馬がわらわら、その半数以上が冒険者。中には顔見知りの冒険者もいる。

 みんな子供を拘束している怪しい四人組に注目し警戒している。

 ここから逃げるのは無理じゃないかなー?

 怪しいおじさん達、大人しく捕まっちゃえばー?








「でさ、君達いつから俺の周りをうろちょろしてたの? 赤毛――確かグランっていったよね、いつからこのおじさん達に気付いてたの? それと何であんなうるさいものをばら撒いたの? ていうかその前から騒いでたよね? 君達、近所迷惑ってものを考えたことがないの?」

 冒険者活動中に周りに迷惑をかけまくっているこいつから、近所迷惑という言葉が出てくるとは思わなかった。


 ここは銀髪ことアベルが泊まっている宿屋のロビー。

 面会や雑談用のソファーが置いてある場所で、アベルがものすごく不機嫌な顔でソファーに腰掛け足を組んでこちらを睨んでいる。

 俺はアベルの向かいのソファーにちょこんと腰掛け小さくなっている。

 そして怪しいおじさんとお兄さん達四人は俺の座っているソファーの後に立ってションボリしている。

 そしてもう一人、アベルの後で黒髪の大男がオーガのような形相で腕を組んで立っている。


 この騒ぎで集まった野次馬は、黒髪の大男が沈めてくれて解散。

 そして変態おじさん達は集まった人達と前に出てきた黒髪の大男に圧倒されてか大人しく俺とアベルを解放し、そのまま大男に促されアベルの泊まっている宿のロビーに連れてこられ大人しくしている。

 この大男実はものすごく強い人なのだろうか。いや、見た目からしてすごく強そうだな。


「えぇと……」

 おじさん達は俺の後にいるのでその様子を見ることができないが、明らかに困ったように口ごもった後、ごそごそと決まり悪そうに体を動かす音が聞こえる。

 まぁそりゃストーカー対象の本人に、いつからストーカーをしていたのかと聞かれ素直に答えるわけがないよなぁ。

「はー、どうせすごく昔からだと思うけどー。ところで君、いつから気付いてたの? それと何で気付いたの? 何でこんなところで騒いでたの?」

 おじさん達がもじもじしていてアベルの質問に答える気配がないので、こちらに矛先は向いた。


「ええと、気付いたのは最近かなぁ。なんかアベル……君の周りに変なパーティーがいるなって思って?」

「エッ! 認識阻害を使っていたのに何でばれて……イテッ!」

 後から声が聞こえてきた。多分黒ずくめおにーさんの誰かかな?

 ゴツッて音が聞こえたから仲間に足でも蹴られたか。

「へぇ~、ふぅ~ん。そこの君、俺もグランって呼ぶからアベルでいいよ。で、認識阻害を使っていたみたいだけど、どうして気付いたの?」


「うん、わかった。気付いたのは、その人達がみんな同じ黒い靴で同じ黒いベルトをしていたから? 真っ黒な装備ってあまり見ないから、わざわざ黒く染めた装備って違和感があるじゃん? だから何となく覚えてて、そういえばいつもアベルの近くで見かけるなって思ったら、アベルが移動すると気配を消してついていってるし? かと言って何か攻撃するわけでもないし? さっきの料理屋でもアベルが店を出た後すぐに追いかけるように店を出たから明らかに超怪しかったみたいな? 認識阻害系の何かを使ってそうだったけど、やっぱり靴とベルトがお揃いだったし?」


「ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとおおお!? そんなことでばれるものなのか!? いやいやいやいや、普通そんなところは見ないだろ? 靴なんて足元だし、ベルトなんて他の装備でほとんど隠れてるよな? それに冒険者だって黒い装備使ってる人は多いのでは!?」

 気付いた理由を並べていると黒ずくめのお兄さんが、納得がいかないのかものすごい勢いで巻くし立ててきた。

「え? ああ、俺子供だから背が低くて目線の位置が低いから、ベルトとか靴に目がいったのかも?」

 振り返りながら答える。ついでに可愛い子供風にコテンと首を傾げておいた。


「へぇ~、ふぅ~ん、そんなことで気付いたんだ……ふぅ~ん。それであの料理屋で気付いて追いかけてきたの?」

「ううん、俺が店を出た時にはもう姿が見えなかったんだ。仕方ないからちょっと散歩してたら、この宿屋の前でおじさん達が隠れてるのを見つけて、つい声をかけちゃったみたいな? そしたら捕まっちゃってヤバイと思って大きな音を出したんだ」

 可愛く首をコテン。

 俺は何も悪いことはしていない。


「隠れているのを見つけてって、やっぱ隠れているとわかって声をかけたんだな!! 仕事の邪魔しやがって!!」

 しまった。ついうっかりポロリをしてしまった。

 最初に声をかけた木の上のお兄さんが俺の後で声を荒らげている。

 だってメチャクチャ怪しかったんだもん。

 ん? 仕事? 美少年をストーカーする仕事? え? やっぱり変態犯罪組織!?


「ふむ、話を纏めてると赤毛――グランはアベルの周囲に怪しい奴がいるのを気付いていたと。それを飯屋で見かけてアベルがつけられると心配して思い追いかけてきたと」

「うん、だいたいそんな感じ。アベルの保護者のでっかいおじさんに知らせようと思ったけど、なかなか会えなくて」

 態度はできるだけ子供っぽく素直で可愛く。

「おじ……っ!? お、俺のことならおじさんではなくドリーだ。それとおじさんではなくまだ二十二だ」

「ぷぷ……俺が許すからおじさんでいいよ。子供は素直が一ば……いたっ! 間違ったことは言ってないのに殴った!!」

 あぁ~、アベルの頭にドリーという大男の拳が落ちた~。

 すごく痛そうだからおじさんというのはやめよう。

 それとクソガキアベルに子供扱いされるのは心外である。


「ふむ、話はだいたいわかった。この怪しい奴らはこちらで対応しておくことにしよう」

「もー、ストーカーおじさんなんて勘弁してよねー。ドリーに任せるからちゃんと対応しといて」

 俺はたまたま気になって首を突っ込んだだけだし、後は当事者に任せてしまおう。

 一番の当事者のアベルは保護者のドリーに任せるようだが。

 よしよし、怪しいおじさん達も捕まったし、俺も宿に帰って休もう。

 捕まったつか、整列してショボンしているだけだけれど。

 大丈夫? 変態組織の人かもしれないけれど拘束しなくていいの?


 そこのとこが少し気になったが、だいたい俺の大活躍で王都美少年ストーカー事件は無事解決した。




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